山本 ここ数十年、高付加価値の文化がありますか?日本はずっとハイテクを追求してきたから、そこではナンバー1になったけど、これからは難しい。これからの日本人がやることはローテクの付加価値。それで世界に認めさせなきゃダメなんです。文化度の高さでモノを売る時代です。

 たぶんアニメとかでしょ、今、日本が誇れるのは。アニメはこの時代にありながら、特別な時空のゆらぎの中で生まれた文化。余裕があってゆとりがある環境だから、精神性を表現できているわけです。日本のアニメには裏打ちされた匠の技巧と、「余裕とヌキ」があるから世界中の人が楽しめるんですよね。つまり「ゆとり」です。これを、今の若者と時代の両方が持っている。これからの日本はバブルを目指すんじゃなくて、50年安定することを目指すべきです。

 一方、中国は高度成長期。経済的なことだけが飛躍していますが、そのうち一旦下げて、そこから安定期に入るでしょう。そうなってきたとき、本当に中国は怖い。50年を10年で進める力が彼らにはある。中国が感性やマナー、規範で日本レベルに到達した時、一気に文化の大波を起こすはずです。歴史もあるし中国人は優秀ですから。そうなったら太刀打ちできない。あと30年もしたら、「ステキな中国」に憧れるアジア諸国がいっぱい出てきちゃうと思うんですよ。

 日本はまだ中国がバブルを楽しんでいる今のうちに、真似のできない最強の文化国家を形成していかないと、日本というブランドのレベルを保てなくなります。この先10年間で手に入れられないと、中国がすごい勢いで追いついてきます。逆に言うとここから10年がチャンスなんです。

 ある意味でバッグは文化の象徴だと思います。その国のバッグを見れば、国民性が大体わかります。女性でも男性でも。日本人がバッグに本当に求めるものは機能性、機能美なんですね。海外ブランドが好きでも使いにくさは感じている。でも、我慢して使う。だけど日本製なら、使いやすさをもうちょっと考えてよ、となる。

 美しくて、海外でも通じるブランド力があって、使いやすい機能が完璧、そして価格がお手頃。日本人はメイド・イン・ジャパンにそれを求めてくる。日本で作ったらめちゃくちゃ高価になるんですよ。だから売れない。日本製のバッグブランドが出てこない原因のひとつです。

 日本市場はいちばん難しいかな。世界中のバッグを知っているから。それでも僕は、日本人が世界に自慢できるバッグを作り続けますよ。今はまだまだ通過点です。