海外での仕事が多いので、倉吉に帰ってくるとホッとします。田舎ってそういう意味でも大切なんですよ。パリもちょっと離れるとすぐ農地が広がってるし、牛が放牧されている。日本もそんな環境になると住みやすい国になると思うんですけどね。

――これから人口が減る時代ですが、「ゆとり世代」といわれる今の若者に対してはどう思っていらっしゃいますか。

山本 今ね、若者の貧困とかってよく言われているじゃないですか。でも、金がないって言いながら結構いいアパートに住んでる。風呂なし、共同トイレには住まない。歩いて遠くの銭湯に行かないでしょ。エアコンがない生活なんてできないし、テレビもあるし、みんな携帯を持ってて、パソコンも持ってる。

 これ、僕からしたら貧困じゃない。みんな豊かですよ。僕らの若いころなんか、バブルって言われてても、風呂なしに住んでる友達も多かったし、財布に200円しかなくて、明日食べるものがないなんて特別じゃなかった。今の子は考えられないでしょ。僕らはそれでも貧困だなんて思わなかった。通過点としか感じていなかったんですよね。

 日本は、失われた20年と言いながら、20年も一定のレベルを保ってきた。今の若者は生まれてから20年、変化のない時代を過ごしてきているんです。大人はバブルと比べるから最低のように思うけど、世界から見たらやっぱり裕福なレベルの国です。

 ヨーロッパはなんだかんだ言っても50年ずっと豊かです。突出しないけど一定レベルで安定してきた。だから高付加価値の文化がある。日本は、やっとヨーロッパのスタートラインにいるわけです。日本も20年静かな一定レベルが続いていて、今の若者が似てきているんですよ、ヨーロッパ人に。

●中国が追いついてくる前に文化的産業を確立しなければ、やられる

 仕事で初めてイタリアやフランスに行った時、ホントびっくりしましたよ、働かなくて(笑)。ルーズだし、言うこと聞かないし、休むし、連絡こないし。でも、これ、今の日本の若い子に当てはまっちゃうんですよ。20年安定したことで、自然にヨーロッパ的になっちゃったんです。日本的を引きずっている「社会人」は面食らうけど、海外ではそんなに驚くことでもないんですよね。それで社会が成り立っている。

 日本もそうなっていくんです、きっと。日本だって開国まではのんびりしたもんだったわけですよ。誰とも競ってなかったから。だから、世界に誇れる素晴らしい文化が生まれて継承されてきた。みんな自分自身と競い、自分の才能の限界と戦うだけでよかったんです。それで生まれたものが日本人の技、匠の技として認められ、今も残っているのです。だから僕はこれからの日本人にすごく期待している。素晴らしい文化を創造すると思う。

――日本も文化的に成熟してきたと思いますが、まだまだということでしょうか。

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