山梨 ワークライフバランスが今回のテーマの入り口になるんですけど、努力だけじゃなく、働き方もそろそろ次のバージョンに移っていかなきゃいけないのかな、と思っていまして。

 その一つが、先ほどおっしゃられた「兼職」になると思うんです。その兼ねる職のほうは、必ずしもお金をもらう仕事じゃなくてもいい。ただし仕事と同じぐらい本気で継続的にコミットする。それは勉強かもしれないし、趣味かもしれないし、社会活動かもしれないけど、そういうものを持っていることはとても大事だなと感じているんですよ。

御立 そうですね。実際、山梨さんは東北の支援をやっておられるし、私も国連WFP(世界食糧計画)でアフリカの飢餓撲滅活動をやっています。こういう活動が自分を豊かにしてくれている部分ってすごくありますよね。

山梨 絶対にあります。仕事では経験できない場面だったり、出会えない人だったりと、自分の中の多様性を広げてくれます。そしてそこで得たヒントを仕事で使うなど、それがまた仕事に戻ってきますからね。

御立 ワークとライフはバランスじゃなくて、ほとんど一体化しているんですよね。

山梨 そしてそのどちらも楽しんでいることが大事なんでしょうね。これからはそういう生活をしていくというのが、次のバージョンの「いい努力」なんじゃないかと思うんですよね。

●「より高い数字」を追い求めていても勝ち目はない

御立 「皆が努力を積み重ねて頑張れば世の中が良くなって経済も成長する」――このモデルを信じられる人がいまの日本にどれだけいるんだろうか、と。

 そうすると、「努力って何だろう」「働き方って何だろう」「自分の満足感って何だろう」となるのは当然で、多くの人がそのモデルをいま探しているところじゃないかと思うんです。

 そして『いい努力』を読んで思ったんですけど、もっといい動き方を模索して、もっと新しいモデルを広げることを楽しむ、ということを大マジメにやったほうがいいんじゃないかと思ったんですよね。それが日本という、急にキャッチアップしたものの高齢化は世界一になって20年も成長しない社会にいる人間の責務みたいな気がしているんです。ちょっと大げさな話ですけど。

山梨 より高い数字、量的な成長だけを目指したところで、日本に勝ち目はないと思うんですよね。むしろここから先は、新しい働き方だけではなくて、新しい楽しみ方、新しい生き方とか、まったく違うことを目指すべきじゃないかと。

御立 ところが人も企業も、成長が落ち着いてきたときに、これまでの成功パターンと同じことをやろうとするものなんですよね。

山梨 僕は25年もマッキンゼーにいたもんだから、途中で多くの後輩が巣立っていくのを見てきました。すると本当に優秀な人というのは、ちょっと時代より早めに、次にくる分野に飛び込んでいくんです。ここ10年ぐらいは、それがソーシャルビジネスということになると思います。

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