●「生活リハビリ」の視点を強化 入居者の自立支援を促す

――「ワタミの介護」の子会社化による職員や入居者の反応はいかがでしたか。

 懸念していた職員の退職などはありませんでした。入居者からも損保ジャパンの子会社となったことで、「経営が安定する」と評価していただける声が多かったので、ホッとしています。入居希望の見学者からも経営の安定面からは好意的に評価されているようです。

――有料老人ホームの運営について、「ワタミの介護」から意識的に変えた点は何ですか

 ワタミ時代はどちらといえば、ホテルライフのような「おもてなし」を重視していた傾向がありましたが、我々はむしろ「生活リハビリ」の視点を強化しています。

 つまり、ホームでの暮らしを通じて、少しでも入居者の自立支援を促すものです。歩けない方には歩けるようになっていただく、寝たきりの方には少しでも改善していただく狙いがあります。このため、10月1日付けで本社には「生活リハビリ推進課」を設置しました。介護専門の理学療法士や認知症対応の専門家など10人ほどのチームで、各ホームの指導を行う予定です。

 また、「VOG(ボイス・オブ・現場)」というキャッチフレーズのもと、現場の職員や入居者の声がストレートに経営層に届くように仕組みを改善しました。そして、ホーム長や地域のホームのまとめ役の「統括」への権限委譲を進めました。

 ちなみに、ワタミの時代から「食」については、力を入れ、こだわりを持っていました。最近の大手有料老人ホームでは、チルド配送による食事が多く、キッチンスタッフがホームに常駐して食事をつくるのは、大手チェーンの有料老人ホームでは珍しいと思います。キッチンスタッフは介護の研修も受けており、オープンキッチンで入居者の顔色を見て、コミュニケーションを取りながら調理しています。きちんとした食事は、認知症予防にもなります。このように良い点はそのまま残しています。

●ワタミ時代に沈んだ入居率 今年度中には80%台に回復させる

――肝心な有料老人ホームの入居率ですが、ワタミ時代に入居率は70%台まで落ち込んでいました。通常、有料老人ホームが健全に経営されるには、85%程度は必要と言われます。入居率は回復しているでしょうか。

 ワタミ時代、一時期は73%まで落ち込みましたが、現在は76%まで回復しています。今年度中には80%台に回復させる予定です(目標82%)。今後の3ヵ年計画では、90%以上を目標としています。

 会社の業績も今年度は赤字ですが、来年度には単年度黒字を見込んでいます。

――「人が重要」と言われる介護業界ですが、仕事が大変な割には低賃金であり、職員の処遇や慢性的な人手不足が問題となっています。退職金制度のある介護会社もほとんどないのが実情です。SOMPOホールディングス(当時は損保ジャパン日本興亜HD)がワタミの介護を子会社化した際、「職員の処遇改善」を掲げていました。

 SOMPOブランドの向上のためにも、手当て、キャリアパスの改善など長く働いてもらう仕組みについて、業界内で率先して取り組みたいと思っています。退職金制度については、現在の弊社にはありませんが、今後、検討していきます。

 介護福祉士の比率は各ホームの加算(介護報酬制度による収入)にも影響するので、増やしていきたい。現在、35%だが、近いうちに5~6割まで増やしたい。正社員の比率も現在(9月1日時点)の45%から今年度中に53%(2016年度目標)まで高めるつもりです。

 人材確保については、ワタミ時代に募集した2016年4月入社の新入社員はわずか19人でした。17年4月に入社予定の内々定者は約80人となっています。毎月採用している中途採用者は60~70人と比較的順調に推移しています。

 また、SOMPOグループとなって、通信教育や団体保険、レジャー施設の利用などの福利厚生制度の面では手厚くなりました。