日ソ中立条約を破った件や、ポツダム宣言受諾後に北方4島を占領した件については、「1945年2月のヤルタ会談で決められたこと。米英も承認している」とかわされる。つまり、ロシアは「米英がソ連の参戦を要求した。その見返りとして、南樺太、千島はソ連領になることを認めた」ということで、まったく「悪いことをした」という意識がないのだ(ちなみに日本は、北方4島は千島ではないという立場を取っている)。

●「2島返還」実現のハードルは低いがその後の方向性が難問に

 こういう歴史的国民意識がある中で、いくら親日プーチンでも、「4島一括返還」は厳しいといわざるを得ない。

 しかもロシアは現在、「経済制裁」「原油価格暴落」「ルーブル暴落」の三重苦で苦しんでいる。プーチンの支持率は、依然として高い。与党「統一ロシア」は、9月18日の下院選挙で大勝した。しかし、経済危機が長期になれば、プーチンも安心していられない。このような状況下で、「4島返還」を発表すれば、プーチン人気が急落し、政権の安定が崩れるかもしれない。

 政治的にも4島返還は、簡単ではないのだ。

 では、「2島先行返還論」は、実現可能なのだろうか?実をいうと、「2島返還」は、「法的基盤」があるので、両首脳が決断すれば実現は可能だ。

「法的基盤」とはなんだろうか? 1956年の「日ソ共同宣言」のことだ。

 日ソ共同宣言の内容を簡単に書くと、「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す」である。この宣言は、日ソ両国の国会で批准されており、「法的拘束力」をもっている。そして、日ソ共同宣言については、ロシアでも広く知られている。

 つまり、プーチンがこれを根拠に2島を返還しても、大きな反対運動は起こらない。しかし、「2島返還」には、問題もある。2島返還後のことだ。

 日本は、返還対象外の残り2島について、「継続協議」としている。これが、「先行返還」(=先に2島を返してもらい、後で残りの2島を返してもらう)の意味だ。ところが、ロシアは、「2島返還」で「画定」したい。つまり、歯舞、色丹は日本領、択捉、国後はロシア領で最終決着し、後々話を蒸し返さないつもりだ。

 ロシア側は、ここ数十年間「北方領土の話しかしない」日本に正直うんざりしている。4島返すにしても2島返すにしても、現状からすると、ロシアに「大損」だからだ。

 日本の主張する「2島先行返還論」を認めると、これからも永遠に、「択捉、国後をいつ返してくれますか?と言われ続ける」と考えている。ところが、日本側は2島で終わりにすることができない。

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