大西ら本社部隊は、この機を逃さず液晶事業に介入。「ウィンテックを経由するシャオミ向け液晶に損失は出るが一過性のもの」と液晶事業部門は説明したが、大西は受け入れず、「無理せんで、無理せんで」と、事業活動の足を引っ張り続けた。

 15年3月期決算で、液晶在庫と亀山・三重工場の減損で計1072億円の損失を計上。15年5月14日の決算発表で、連結最終損失2223億円の巨額赤字を計上した経営責任を取り、方志は6月の株主総会で退任が決まって失脚した。

 一方、2000億円を超える巨額の損失を出したにもかかわらず、社長の高橋の責任は一切問われなかった。財務責任者である大西は、代表取締役を外れたが、副社長執行役員として残留し、のうのうと生き延びた。(敬称略)

●ホンハイ傘下でシャープは再生できるのか

 『週刊ダイヤモンド』5月21日号の第1特集は「背徳のシャープ 液晶敗戦の全顛末」です。かつて「液晶のシャープ」で世界に名を馳せた名門企業はなぜ、身売りをするまでに転落したのか。社内外での取材を通して驚愕の事実が次々と浮かび上がってきました。

 身売りに至った背景には、身の丈を超えた過剰な液晶への投資を続けた経営判断のミスに加えて、醜悪な権力抗争に明け暮れて経営危機を放置した経営陣の無為無策があったのです。「誠意と創意」という同社の経営信条に対する背徳行為を目の当たりにして、多くの人材がシャープから去って行きました。

 そんなとき“救世主”として現れたのが、郭会長率いる台湾EMS(受託生産)大手のホンハイでした。しかし、冒頭のエピソードからもわかるように、ホンハイは、救世主どころか「進駐軍」として無理難題を突き付け、シャープを振り回しています。

 本特集では、台湾での現地取材で、年商15兆円の巨大企業ホンハイグループの全貌を明らかにするとともに、豪腕経営者・郭会長の素顔にも迫りました。

 さらに、巨額投資で価格競争に走る中国勢や有機ELにシフトする韓国勢など、ディスプレイパネル産業に起こっている構造変化の現状と未来も展望しています。

 私が初めて触れたシャープ製品は、業界初の「一発頭出し機能」を備えたモノラルのラジカセでした。子どもながらに「すごい!」と感動したことを覚えています。あの輝きは、なぜ消えてしまったのか。果たしてよみがえるのか。本特集をぜひご覧ください!

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 前田 剛)