パナマ文書で「お客の悪事」が世界で大問題になっている。お客に「悪事のシステム」を供給した側、すなわち金融資本の責任追及はどうなっているのか。

 タックスヘイブンは「悪いこと」ではないのか。利用者は「合法的な節税」という。だれもが利用できる制度なら、節税という言い訳も成り立つかもしれない。だが、海外に会社を設立して資金を移す、ということは誰もができることではない。

 高額所得者は、それなりの納税をして国家社会を支える、ということは民主主義の要ではなかったか。金持ちはタックスヘイブンで合法的に節税ができるが、中・低所得者は厳格に徴税される、という仕組みで社会は成り立つのか。勤勉と公正を大事な価値として発達してきた近代資本主義や民主主義の思想から明らかな逸脱が起きている。

 パナマ文書には、日本を代表するメガバンクの名が英文で書かれている。タックスヘイブンで税金逃れを手伝っている疑いがある。事実だったらとんでもないことだが、菅官房長官の反応には仰天した。

「文書の詳細は承知していない。日本企業への影響も含め、軽はずみなコメントは控えたい」。政府が率先して調査すべき問題ではないのか。

「タックスヘイブン――逃げてゆく税金」(岩波新書)の著者、故・志賀櫻氏は、「タックスヘイブンは金融危機と無関係ではない」と筆者に次のように力説した。

「10兆ドルともされる隠匿資金は決して眠ってはいない。儲け口を求め世界を駆け巡り、ある時は通貨、またある時は株式に流れ込み、マネー奔流が市場を不安定にする。バブルをかき立てるのは国境を超える投機資金です」

 投機資金の暴走を抑えるため、金融機関には様々な規制が設けられている。それでは商売にならないと業者の要請を受け、サッチャー以後「規制緩和」が金融ビジネスを全開にした。合言葉は自己責任。タックスヘイブンは新自由主義経済が産んだブラックホールでもある。

 投機資金の暴走が招いた典型がリーマンショックだった。加担した銀行・証券は壊滅的打撃を受けたが、自己責任を果たせなかった。公的資金が注入され救済されたのである。

 大金持ちは税金を免れ、銀行はタックスヘイブンを利用してカネを呼び込む。隠匿された投機資金が暴走しても銀行は救われる。投入されるのは納税者のカネだ。負担はいつも中・低所得者。これでは世の中おかしくなる。

 元財務官僚として国際租税の歪みと戦ってきた志賀は昨年末、急逝した。著作の末尾に書かれた一節をここに記す。

「タックスヘイブンは、富裕層や大企業が課税から逃れて負担すべき税金を負担しないことに使われ、犯罪の収益やテロ資金の移送に使われ、巨額の投機マネーが繰り広げる狂騒の舞台にも使われている。その結果、一般の善良かつ誠実な納税者は、無用で余分な税負担を強いられ、犯罪やテロの被害者になり、挙句の果てにはマネーゲームの引き起こす損失や破たんのツケまで支払わされている」

 政治は誰が動かしているのか。パナマ文書は民主主義の在り方を問うている。