マーケティング戦略に関しても、たとえばある企業が若い女性マーケットやトレンドに関して綿密な調査と分析を行なっているということが知られたら、競合他社はその企業が何をしようとしているか、おおよその推測ができてしまう。戦略コンサルタントという仕事はそれくらいセンシティブな仕事であるし、だからクライアントも厳格な守秘義務契約を求めるし、メディアで発言したり寄稿したりするときも細心の注意が必要となる。

 僕もさまざまなメディアに寄稿したり連載を持ったりするが、進行中の案件を抱えるクライアントに関することはもちろん、その業界のことも基本的には触れない。仕事が終了したクライアントやその業界に関しても、たとえば10年レンジでの長期商品戦略、事業戦略といった「自分の仕事としては終わっているが、クライアント企業としては進行中」という案件もあるので、そのような案件に関わることはやはり基本的には書かないし、書く場合もそのクライアントの仕事で得た情報は一切使わない。メディアで伝えられ、世間で知られている情報だけを使って原稿を書き、セミナーで話をする。

 コンサルタントというのはそういうものだし、だから自分が関わる企業や業界に関するニュースを扱う可能性の高い、報道番組のキャスターなど引き受けるべきではないし、とても引き受けられないだろう。100歩譲っても、コンサルタントが引き受けられるのはコメンテーターまでである。あるいは、キャスターの仕事を引き受けるなら、コンサルタントとしての仕事を一切辞めるべきだろう。

●メディアが示すべきジャーナリズムの正義と矜持

 テレビメディアは高市早苗総務相の「電波停止発言」(高市氏は「電波を止めると発言していない」と主張している)を巡って批判的な報道を行なっているが、ジャーナリズムの原則を云々言うなら、まず自分たちがジャーナリズムの正義と矜持を示すべきだ。

 にもかかわらず多くのメディアは、CMに出ているアイドルグループのメンバーをキャスターに起用したり、キャスターがCMに出まくっていても問題視しない。渦中の新番組『ユアタイム』においても、ショーンK氏だけでなく、モデルの市川沙耶氏をキャスターとして起用すると発表している。言うまでもなく、モデルとは企業のCMや広告に出ることが仕事だ。市川沙耶氏が『ユアタイム』出演中はCMや広告の仕事を一切断るというなら話は別だが、そうでないとすれば、こちらのキャスティングも問題だ。

『ユアタイム』は報道情報番組であって、純粋な報道番組ではないから、経営コンサルタントやモデルをキャスター起用しても問題なしと言うなら、まず自社サイトの「フジテレビの夜のニュース&スポーツが生まれ変わる!」という紹介文を書き換えるべきだし、「報道情報番組」などという最初から逃げを打つようなキャッチコピーから「報道」の文字を取り去るべきだろう。

 詰まるところ、報道番組が目先の数字を追いかけて小手先の話題性喚起を優先させることは、東芝など企業における不正会計と同じではないのか。短期的には利益が得られたとしても、長期的には崩壊の道を選ぶ行為にほかならない。ジャーナリズムは、テレビメディアの最後の牙城だ。それをフジテレビは自らの手で崩してしまった。今回の「ショーンK問題」の本質はそこにある。