では、ここから本題に入ります。


 もちろん、数字に強い人がする計算は後者です。この差の正体は、いったい何なのでしょう。
 特に、前者のほうは「C」ボタンを何度も押し、なおかつその「C」ボタンで自ら消した数字を、後で電卓を自ら叩いて再び表示させていることに注目してください。明らかに、無駄な作業がいくつかありますね。

 多くの企業研修でビジネスパーソンを観察していてわかったことですが、数字に強い人は、必要な数字と不要な数字を見分ける能力があります。
 
 たとえば、びっしりと数字が並んだエクセルのデータがあったとします。
 数字を苦手に感じている人ほど、すべての数字が必要だと思ってたくさんのデータを眺めています。

 一方、数字に強い人はそのたくさんのデータから「必要な数字はこれとこれ」と見極めることが得意です。不要なものは削ぎ落として、必要なところだけ残す。そんなイメージです。

 皆さんがピンとくる例を1つ挙げます。
 たとえば、前月と今月のあなたの給与額の差をどう計算しますか?
 基本給などは変わりませんから、おそらく残業代や交通費などほんの一部の項目だけが「差」を生むはずです。つまり、基本給など何から何まですべて使って計算などしなくとも、必要な部分だけ計算すれば済むはずです。

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★数字が苦手な人
  目の前にある数字は、なるべくたくさん使ったほうがいいと思っている

★数字に強い人
  必要な数字だけ使えばいいと思っている
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 先ほどの計算の差は、こんなちょっとした思考の差から生まれているのです。
 いったいどちらのビジネスパーソンが仕事の効率がよく、すぐにアウトプットを出せる人か、答えは明らかでしょう。

 ですから私は、社員トレーニングの場などでは、必ずウォーミングアップとして受講者の皆さんに電卓を叩くワークをご用意します。
 ですがそれは同時に、講師である私が受講者を知るためでもあります。たったこれだけの計算問題を使って電卓を叩かせるだけで、その人の思考回路が透けて見えるからです。

 一流のボイストレーナーは、その人の声を聞けば年収がだいたいわかるといいます。
 接客の一流は、お客様の靴を見ればその人のことがだいたいわかるといいます。

 そんな一流の方からは「一緒にするな」とお叱りを受けるかもしれませんが、私もそうです。

 電卓の叩き方を見れば、その人がわかるのです。