●業界再編に飲まれる可能性も? VAIOに残された時間はあまりない

 ただし、長いスパンでWindowsスマートフォンの巻き返しがあったとしても、そのときにVAIOがその中心にいるということは難しいかもしれない。VAIOは元ソニーの知名度で名前こそ知られているが、現在ではベンチャー企業ほどの規模にまで縮小し、ソニー時代に全世界で販売されていたVAIOブランドのPCも今は国内市場のみに収斂し、ようやくアメリカにも再進出しようというところである。しかも、株式の大半を持つ日本産業パートナーズは投資ファンドであり、VAIOには短期的に企業価値を上げる必要があり、その後は再売却されることも十分にあり得る。

 しかも、その可能性は直近に迫っている。昨年12月4日に日本経済新聞が報じたところによると、東芝と富士通はPC事業を統合してスピンアウトしようとしているが、そこにVAIOが参加し、VAIOを存続会社として3社統合を行うことに日本産業パートナーズも前向きだという。

 日経は、3社のPC事業を統合すれば、「国内市場で3割強のNECレノボグループ(26.3%)を抜いて首位に躍り出る」と報じているが、世界市場の「3社のシェアは約6%」とも述べている。これらの数字は現在のそれぞれのメーカーの市場シェアを足し算しただけの机上の空論であり、実際の統合効果があるのかは不明だ。このコラムでも述べたことだが、重複する事業同士の統合はリストラが伴い1+1+1=3にはならないと筆者は考える。しかも世界的に水平分業が進んでいるPC産業において、世界で6%ぐらいしかない市場シェアはあまりに中途半端であり、調達などで大きな合併効果があるとは思えない。むしろ、スリムになって「らしさ」とスピード感が出てきたVAIOが逆コースを歩むことにもなりかねない。投資ファンドに転売される前に、企業としてVAIOが独り立ちできるようになるには、スマートフォン1機種では難しいだろう。

●VAIOが思わぬ激変をもたらす? 携帯ビジネスの「終わりの始まり」

 繰り返しになるが「VAIO Phone Biz」がいきなり市場に激変をもたらすとは筆者は考えないし、VAIOの担当者も考えていないだろう。VAIOという会社も今後どのようになるのか不透明な部分もある。しかし、この小さな変化が、近い将来2つの大きな終焉をもたらすかもしれない。

 1つは、日本市場におけるiPhone独占の終焉である。これは先に述べたとおりで、iPhoneは販売ノルマとそれを実現するためのMNPを利用した実質0円販売によって支えられてきた。しかし、今後は1台の端末を長年にわたって大切に使うユーザーが増えることが考えられる。日本の例ではないが、台湾では、数年前までiPhoneが50%前後のシェアを持っていたが、大手通信キャリアが販売台数ノルマのコミットメントを拒否してから10%台にまで落ち込んでいるという。同じようなことが、日本でも起こるかもしれない。

 もう1つは、端末メーカーによる端末直販とMVNOビジネスの伸長の可能性である。端末メーカーにとって、キャリア全数買い取りは確実な収益源であり、甘い汁でもあるが、それが故にキャリアごとに仕様を合わせる追加的コストや、キャリアによる販売台数の確約が、製品開発競争の気を緩める要因にもなっていた。これからは、端末メーカーが本当にユーザーに長く愛される端末を丁寧に開発し、商品化していくことが求められるかもしれない。

 また、MVNOの伸長は、必ずしもドコモにとって悪いことではない。現在、個人向け携帯電話のMVNOサービスを行っているほとんどの会社は、ドコモの回線を利用している。ドコモ回線を利用するMVNOが増えることは、ドコモにとって直接契約よりは収益性が下がるものの、通信インフラの「土管屋」として最も設備投資が進んでいる同社にとって、有利なビジネスとなる可能性もある。実際、個人向けMVNOサービスは、auでは系列のUQモバイルや関西電力系のmineoくらいであり、ソフトバンクはBtoBビジネス以外MVNOをやっていない。

 これらの変化によって、日本の携帯電話市場でもう一度ガラガラポンが起きるかもしれない。そのときのために今日本メーカーに求められることは、「細々とでも事業をやめない」ということだろう。

(早稲田大学ビジネススクール・長内厚)