しかし、今回の「VAIO Phone Biz」は、ドコモで販売される端末でありながら、ドコモのLTEバンド以外にもau、ソフトバンクなど主要キャリアのバンドにも対応している。今までは、各社のバンドに対応したSIMフリー端末を手に入れようとしたら、海外端末の一部の高級モデルを輸入して購入するしかなかったことを考えると、一見小さな変化のようだが、これは大きな変化の前触れなのかもしれない。

●規制緩和と0円携帯廃止によって変化の兆しを見せる市場構造

 これまでの携帯電話ビジネスは、端末メーカー各社が、一見同じ製品のように見えてキャリアごとに異なる仕様の製品をドコモなどの通信キャリアに販売し、通信キャリアは自社専用にカスタマイズされた端末を端末メーカーから全数買い取るというビジネス形態であった。これは、キャリアによるエンドユーザーの囲い込みができるのと同時に、端末メーカーにとっても安定的な収入源となるメリットがあった。

「VAIO Phone Biz」は日本のスマートフォン市場全体の規模からするととても小さな存在かもしれないが、従来のビジネスモデルに変化をもたらすきっかけになるかもしれない。「VAIO Phone Biz」の仕様であれば、ユーザーはSIMカードの入れ替えだけで他社キャリアに乗り換えることが可能であり、端末の買い換えだけでなく、MNPの手続きも必要ない。さらに、徐々に存在感が増しているMVNOへの乗り換えも容易だ。

 ドコモがこうしたこれまでとは異なる製品の出し方をしたのは、来たるべき規制緩和と実質0円携帯販売廃止によるiPhone独占の終焉を予期したシミュレーションなのかもしれない。

 実質0円販売では、たとえば、ドコモのiPhoneからソフトバンクのiPhoneに乗り換えようとするときに、一見同じに見える端末を端末ごと新しいものに変えてMNPするのが一般的であった。しかし、実質0円販売が終了すると、携帯電話の販売代金が従来よりかなり高額となるため、買い換えサイクルは長くなり、キャリアを通じた端末販売は減少することが見込まれる。

 特にこれまでiPhoneについては、販売台数ノルマのコミットメントがあったため、各キャリアともガラケーや国産スマートフォンを使用している顧客からの収益を、iPhone購入者のためのリベートとすることで0円販売を実現してきたが、それがなくなる見込みである。全世界で最もiPhone市場シェアが高い日本でも、「安いからiPhone」という需要が激減するので、今後のスマートフォンの勢力地図は大きく変化するかもしれない。

 スマートフォンは全世界的に見るとAndroidがトップシェアで、残りのほとんどがiPhoneという状況で、Windows Phoneがどこまで食い込めるかはいまだに不透明である。しかし、タブレット市場では、Androidは弱く、WindowsタブレットがiPadを抑えてトップとなっており、PC、タブレットとの連携を考えるとビジネス用途を中心に、今後Windowsスマートフォンの巻き返しのチャンスがないとは言い切れない。

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