鈴木:そうそう、忘れない。でも、高校の先生たちもかわいそうなんです。結局、学習指導要領で決められている範囲までは授業をやらなきゃいけないので、とにかく学期中に授業をこなすというスタイルになってしまいがち。生徒が理解していようがいまいが、とにかく形だけの授業をやるという「発信主義」になるんです。
それよりも大事なことは、「自分で学べる子」を育てることです。灘の授業のいいところは、「導入の部分」にものすごく時間をかけること。そこで原理原則が頭に叩き込まれているので、そのあとの授業がスピーディにさーっと進められる。
津田:僕も企業研修や社会人セミナーでは参加者を指すんですが、答えが出るまでなるべく待つようにしていますね。一度、あまりにも待ちすぎて、授業が終わったら23時45分だったこともあるくらい(笑)。指された人はつらいですけど、こうでもしないとみんな考えないんですよ。
その意味でいうと、単なるグループディスカッションというのは「考えさせる」のに向いていない。みんな考える前に「間」を埋めようとして「しゃべって」しまいますからね。
鈴木:ええ、よくわかります。熟議ワークでも、最初は参加者には発言させません。まずは個人で、脳の中に入っているアイデアを全部、ポストイットに書かせる。
「このテーマに関して頭の中にあることをすべて書き出しましょう」と言うと、日ごろからものを考えている人は、10枚でも20枚でも書ける一方、全然書けない人も出てくる。わざわざ「あなた、普段から考えていませんよね?」なんて言わなくても、もう目の前のポストイットを見れば、考えているかどうかは一目瞭然です。
津田:質も大切なんですけど、量は質に展開しますからね。やっぱりたくさん出せることが必要条件だと思います。
鈴木:そう、そのあとにポストイットをグルーピングさせて、グループにラベリング(名前をつける作業)させます。ここでは「言葉の力」の差が歴然と出ます。いい名前の候補をどんどん出せる人と、何も言えない人――その人のもつボキャブラリーの豊かさが露呈するわけです。
●出世する東大卒は「○○スキル」が高い
津田:ボキャブラリーの豊富な人材と言うと、僕はいつも芸人を思い浮かべるんです。
鈴木:私も前から芸人さんについては「この人たち、めちゃくちゃ頭の回転がいいな~」と思っていますよ。彼らはずっとネタを考えていますから、相当、地頭も鍛えられている。ああいう頭のよさが、これからの日本には本当に必要なんですよ。
津田:石井てる美さんっていう、東大を出てからマッキンゼーに行って、TOEIC990点満点なのに今は芸人をやっているという面白い人物とも対談しました。彼女も周りの芸人を見てまったく同じことを感じていましたね。
鈴木:へえ、面白い人が出てきていますね!?何を隠そう、私、東大時代には駒場小劇場で芝居もやっていたんです。
津田:それは知りませんでした!
鈴木:芝居とか漫才の脚本というのは、間、言葉の選び方、論理性と感性、量から質への展開、要素の重みづけ(プライオリティ)といった、まさに「思考に関わる総合力」が問われますよね。
それこそ津田さんのビジネス研修なんかでも、生徒さんにはお笑いの脚本を書いてもらったらいいんじゃないですか??ビジネスマンが思考力を磨くには、最高の方法かもしれません(笑)。
津田:藤原和博さんとの対談したときに、藤原さんも「ロールプレイング(役割を演じること)の力が重要だ」という話をされていました。ロールプレイングの考え方はいろんなところに使えますよね。
鈴木:まさにお笑い芸人もそうだし、経営もそうですから。
津田:商売というかマーケティングそのものが「顧客の立場で考えること」なわけですから、まさにロールプレイングは大事ですね。