大谷投手は七回を投げ、打たれたヒットはわずかに一本(デッドボールが一つ)。韓国チームに得点を許さず、合計二十一個のアウトのうち十一個を三振で奪う見事なピッチングで、韓国の選手には申しわけないが、格の違いを見せつけたような快刀乱麻だった。日本代表は、大谷投手が投げているあいだに三点を先制した。

 大谷投手の後を継いだのが東北楽天ゴールデンイーグルスの則本昴大投手だ。二年連続でパ・リーグの奪三振王に輝いた則本投手の投入は、日本代表の勝ちパターンでもある。則本投手は、八回こそ文句なしの好投で韓国打線を抑えたものの、回をまたいだ最終回、韓国の代打攻勢に三連打を浴び、瞬く間に一点を失うと、韓国との点差を三対一の二点とした。あれあれ、と目を疑ってしまうような展開だ。

 則本投手は次打者に不用意なデッドボールを与え、無死満塁という絶体絶命の大ピンチを作ってマウンドを降りた。焦りと消沈が漂うサムライたちとは好対照に、韓国ベンチはノリノリだ。

 結局、則本投手はワンアウトを取ることもできず、楽天のチームメイト・左腕の松井裕樹くんに後を託すのだが、松井くんも韓国の勢いに圧倒されてしまったか、決め球のスライダーを一球も投げることなく押し出しで韓国に一点を献上。三対二と、日本は一点差に詰め寄られてしまった。

 松井くんはフォアボールを出しただけで降板だ。小久保裕紀監督は四人目の投手に北海道日本ハムファイターズの増井浩俊投手を送り込むが、迎えるは韓国代表の主砲にして今年の日本シリーズでMVPに輝いた福岡ソフトバンクホークス李大浩(イ・デホ)選手だ。最悪でも同点で抑えておきたい場面だったが、イ・デホ選手が放った一打はレフト線への二点タイムリーとなり、四対三と韓国は逆転に成功する。

 最終回まで日本は三対〇と韓国チームを封じ込めてきたが、最終回、韓国はデッドボールをはさむ五連打で試合をひっくり返してしまった。日本代表は一次ラウンドを無敗で突破し、この日の負けが唯一の敗戦だ。だが、その負けが決勝進出の夢を断たれた試合にもなった。

「二〇〇六年(WBCアジアラウンド:東京ドーム)も勝ったけど、今日の劇的な勝利はそれ以上。大谷攻略はうまくいかなかったけれど、救援投手は少し球威が緩くなる。最後まであきらめなければこういうことが起きる。今日のように強者が弱者に負けることもある」

 試合後の韓国代表監督・金寅植氏の談だ。思わず「小が大を食う」という万俵大介の台詞が脳裏を過ぎったのは私だけか(わからない方は山崎豊子著『華麗なる一族』をお読みください)。

 残念ながらサムライたちは準決勝で敗れ、土曜日の三位決定戦にまわるが、この大会、日本代表は優勝が命題だった。『世界野球WBSCプレミア12』は、今回が第一回の開催であり、日本は開催国でもあったからだ。プレミア12の「初代王者」こそが日本代表のめざすところだったが、行く手は韓国代表に阻まれた。日本の敗退で決勝戦を放映するテレビ朝日は頭を抱えたかもしれない。

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