中川氏には『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)という著書があるが、下世話なネタやエンタメ、面白コンテンツとも、「PV」(ページビュー/閲覧数)という同じ指標で戦わなければいけないのがネットメディアだ。新聞社が一方的に情報や分析を出せば購読者がお金を出してそれを買ってくれた時代は、終わりつつある。日経のFT買収も、規模の拡大においてはメリットがあるものの、「真価が問われるのはその中身」と言えそうだ。

 では、買収・提携といった大がかりな話はともかくとして、今後デジタルに本格参入したいオールドメディアは、まずどんな「戦い方」を学ぶ必要があるだろうか。日本のネットニュースメディアの中で注目すべき運営方針を持つものについて、前出の中川氏、西田氏に聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

「朝日新聞社が運営する『with news』(ウィズニュース)と、『弁護士ドットコムニュース』(弁護士ドットコム株式会社運営)は、ネットニュースをわかっている。これまでのネットニュースが資金力や運営力不足からできなかったのに対して、『流行りものの深掘り』ではあるがそれをやっている」(中川氏)

 意外と言うべきか、日本の新聞業界において象徴的な存在である朝日の名が上がった。with newsでは取材や構成力に長けた記者たちが、流行りのネタをスピーディに取材する。最近の記事では、「横浜ゴムのタイヤが消しゴムに 突然の人気、受験生もすべらない?」「ぽっちゃりコスプレ「デブライブ!」が話題 「可愛い」「元気出た」」など。記者が見つけた小ネタを広めようとするのではなく、ネット上ですでに話題になっているネタを深掘りするスタンスが見える。

 かたや弁護士ドットコムニュースは、弁護士事務所と提携し、話題のニュースに対してネット上で上がっている疑問にいち早く弁護士が応える。たとえば最近では、大阪高槻の中1遺棄事件について、8月25日に「<大阪中1遺棄>被疑者「黙秘」に批判の声――なぜ「黙秘権」は認められているのか?」という記事を出している。容疑者が逮捕されたのが22日、黙秘について報じられ、ネット上で批判が出始めたのが23日頃だ。

 弁護士ドットコムがニュース配信を始めたのは2012年。それまでのネットニュースの多くは、識者のコメントを取って取材する記事の制作に時間がかかってしまっていた。記事ごとに専門の識者にアポイントを取るところから始めるためだ。弁護士ドットコムニュースがスピーディに記事を出せるのは、弁護士事務所との提携が成功しているからだろう。

●全盛期の新聞に劣らない安定感があるネットメディアも

 一方、記事のつくり方や掲載タイミングといった「工夫」が光るケースばかりでなく、全盛期の新聞に劣らない安定したビジネスモデルを構築しつつあるネットメディアもある。西田氏は指摘する。

「Yahoo!ニュースは新聞に対する信頼度と似た安定感があり、高齢者も知っているという認知度を獲得している。また経営的にも比較的安定している」(西田氏)

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