デジタル化を軸とした「メディア大再編」は加速するのだろうか。その真贋を探る
デジタル化を軸とした「メディア大再編」は加速するのだろうか。その真贋を探る

 近い将来、メディアの大再編が加速するのではないか――。7月下旬に報じられた、日本経済新聞社による英フィナンシャル・タイムズの国境を越えた買収劇以降、そんな話がまことしやかに語られるようになった。確かに、デジタルビジネスを軸としてグローバルで覇権を競おうとするオールドメディアの離合集散が、今後起きないとは言い切れない。だが世間では、具体性や根拠のない憶測ばかりが語られている観がある。「メディア大再編」は本当に加速するのだろうか。その真贋を探る。(取材・文/プレスラボ・小川たまか)

●国境を越えた日経のFT買収 メディア大再編は加速するか?

 日経がFTを買収――。

 7月下旬、そのニュースは驚きを持って迎えられた。英国の著名な経済紙『フィナンシャル・タイムズ』(以下、FT)を運営するFTグループを、日本の日本経済新聞社が親会社のピアソンから買収したのだ。買収額は8億4400万ポンド(約1600億円)となった。

 FTは米国のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)と並ぶ有力経済紙。1888年から長い歴史を持ち、クオリティへの信頼やブランド力は安定している。また近年では有料の電子版を成功させており、すでに購読部数(70万)のうち70%が電子版という。

 日経側は翌日の記事で、「日経とFTの組み合わせは、世界のビジネスメディアで大きな存在感を示すことにもなる」と書き、日経の電子版読者(43万)と合わせると有料読者数が合計93万となり、米ニューヨーク・タイムズ(91万)を抜いて世界トップになること、さらに新聞発行部数はWSJ(146万部)の2倍強となることを示した。新聞・雑誌などの紙メディアにとって、これはまさに脅威を覚えるニュースであった。

 ただ、当初世間では、日経とFTの「温度差」を指摘する声が上がっていた。世界的に知名度のある経済紙を手に入れた日経と比べ、FT側では新しいパートナーが「日経」であることに重きを置いていないのではないかという声だ。買収後もFTの編集権独立は明言されており、両社の取り組みがどこまで深いものになるかは未知数、という見立てである。

 とはいえ、この買収が国内メディアに一定の衝撃を与えたことは間違いない。あれから1カ月ほどが経過するなか、筆者の周囲では、「日経のFT買収を1つのきっかけとして、メディアの大再編が加速するのではないか」という、関係者の声が聞こえるようになってきた。新聞の社説などでも、そうした論調の記事を見かけることがある。

 日本のメディアが海外の有力紙を買収するという事態が起きたことに対して、当初はニュースを聞く側も現実味を感じられなかった。それがある程度時間が経った足もとのタイミングで、改めてその影響を客観的に見据えようとする動きが出始めたのかもしれない。買収の第一報以降、新しい情報があまり出回っていないことも、世間の憶測を駆り立てる原因だろう。

 ただでさえ、メディアが置かれている状況は厳しい。従来、日本のメディアの雄であった新聞の発行部数は、1997年頃をピークに下がり続けている。2009年にはインターネット広告費が新聞広告費を初めて上回り、以降両者の差は開くばかりだ。

 新聞各社にとっては、デジタルメディアの有料購読者や広告費を上げていくことが命題であることは間違いない。そこへ来て、日経がFTを買収した。日経以外の各社は電子版の有料購読者数を明確にしていないが、電子版をいち早く開設(2010年3月)した日経が、今のところ有料購読者数で優位に立っていると考えられる。

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