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「去年のものから、さらにここを改善しました」

 確かに昨年飲んだ同じ名柄の酒とは印象が変わっていた。一度完成した味でも、恐れることなく改良を続ける。山形県村山市にある高木酒造の「十四代」は、僕が今、日本で一番おいしいと思う酒だ。

 「十四代」に出合ったのは、日本の旅を始めてすぐ、日本酒に興味を持ち始めたころだった。それまではワインやシャンパンを飲むことが多く、日本酒に対しては「きりっと辛いもの」というイメージを持っていた。日本酒のおいしさを表現するのによく、「淡麗辛口」という言葉が使われるが、「十四代」はその反対の、「芳醇旨口」。お米のうまみと甘みがしっかりと出ているのに、ダレることがなくのどごしが良い。ある意味、矛盾する特徴が同居する、まさに僕が探し求めていたものにピッタリの酒で、「こんな日本酒があるんだ」と驚いた覚えがある。

 山形を語る上で欠くことのできないこの酒のクオリティーを支え続けているのは、約400年の歴史を誇る蔵の十五代目、高木顕統(あきつな)専務の日本酒に対する飽くなき探究心。これまで150蔵以上を巡ってきたが、味だけでなく、酒造りへのこだわりや哲学も間違いなくトップクラスだ。

「20代で酒造りを始めたころは、淡麗辛口の大ブームだったんです」

 東京農業大学農学部醸造学科を卒業した高木さんは、東京で就職。その後、実家で杜氏が引退したのをきっかけに、自ら酒造りに挑むことになる。今でこそ、杜氏も兼ねて、自らのこだわりの酒を追求する若手の蔵元も増えてきたが、その先駆けであり、彼らのよき見本となっているのが高木さんなのだ。

 高木さんは普段はおっとりとしているが、酒の話をしだすとがらりと顔が変わり、学者のような雰囲気になる。さらに蔵を案内してもらっていると、時折厳しい「蔵人」の表情を見せ、周りの空気もガラッと変わる。それは、伝統工芸の世界で長年自らの業(わざ)を追及し続けた職人を彷彿とさせるものだ。

 そして、その探究心には、本当に驚かされる。人気が出て売れるようになると生産規模を拡大しがちだが、高木酒造はそれをほとんどせず、酒の味を純粋に追及し続けている。人間の手をかけられるところはできる限り丁寧に時間をかけ、その一方で毎シーズン、最新の機械を入れてより高いクオリティーを目指す。

「どんなに大変な思いをしても、いい酒ができれば喜びに変わるんですよ」

 日本酒は水と米、米麹で造られる。高木酒造には決して秘密の製造工程があるわけではない。機械や技術に関しても、高木さんと同レベルの蔵人はいるかもしれない。それでもなぜ「十四代」がここまでおいしいかといえば、それは高木さんのこだわりとセンスとしかいいようがない。

 サッカーでもそうだが、特別な技術というのはそんなにない。重要なのは、その技術をいつ、どこで、どのように使うか、というセンスしかないと思う。蔵を訪ねて、このセンスにもっと触れてみたくなった。できれば酒の仕込みの時期、1週間くらい泊まりこんで、一緒に酒を造ってみたい。