監修 藤森裕治(ふじもり・ゆうじ)信州大学教育学部教授、信州大学附属長野小学校校長。1960年生まれ。筑波大学卒業後、上越教育大学大学院修士過程修了。教育学博士。東京都立高等学校教諭を経て現職。NHK Eテレ『国語表現』、TBS『所さんのニッポンの出番』では軽妙な語り口で人気の先生。3人の子の父親でもある
監修 藤森裕治(ふじもり・ゆうじ)
信州大学教育学部教授、信州大学附属長野小学校校長。1960年生まれ。筑波大学卒業後、上越教育大学大学院修士過程修了。教育学博士。東京都立高等学校教諭を経て現職。NHK Eテレ『国語表現』、TBS『所さんのニッポンの出番』では軽妙な語り口で人気の先生。3人の子の父親でもある
『にっぽんの図鑑』(小学館)
『にっぽんの図鑑』(小学館)

 「大人でも答えられない『すごい! にっぽん』83テーマ丸わかり!!」の『にっぽんの図鑑』(小学館)が人気を集めている。3歳から小学生までを対象に、子どもにも分かる食文化や行事などの身近なテーマから日本を知る。類書がない初めての図鑑だ。「にっぽんの こころ」「にっぽんの くらし」「にっぽんの でんとう」の三つに分類され「にっぽんの あいさつ」「にっぽんの しょくじ」「にっぽんの まつり」など、幼児・児童になじみのある事柄や、昔から伝わる風習や文化など、83の事柄を紹介している。

■学びの広場としてとらえる

 「私たちが自覚しているよりも遥かに、日本が国際的に注目されています。日本人の伝統的な食文化である和食も、2013年にはユネスコ無形文化遺産に登録されて関心が高まっています」という監修者、信州大学教育学部の藤森裕治教授に話を聞いた。藤森教授の専門のひとつに日本民俗学があるが、掲載されている内容は、日本の民俗文化を知る上でもほぼ網羅しているという。
 20年の開催が予定されている東京オリンピックに向け、国際社会の中での日本とは何だろう、どのような国なのだろうと、さらに問われるのではないだろうか。今の子どもたちが成長し、やがて青年になり、社会を支える頃になると否応なしに問われていくに違いない。そのためにも、幼児・小学生のときから「日本」を楽しみながら知ることが大切である。お母さん、お父さん、あるいはおばあちゃん、おじいちゃんと一緒にこの図鑑を学びの広場としてとらえ、健康で豊かなたくましい心をもってほしいのだ。

■本好きになるきっかけ

 眺めているだけでも楽しいが「やってみよう」のコーナーでは「おもいやりを てがみで つたえよう」「はにわを つくろう」「すしを にぎってみよう」など、実際に行動するメッセージもある。見て読んで体験し、体験してまた見て読んでみる。これを繰り返すことで子どもの学び・知識は定着していくのだ。
 例えば「縁起がよい」という言葉には、福がやってくるという意味がある。その福をよぶ日本ならではの置物に、だるまや招きなどが挙げられる。だるまは、倒れても起き上がることから、あきらめずに願いをかなえる縁起物であり、表面の赤は悪いものを近づけない色、長生きを願う模様として、顔には鶴と亀も描かれている。目は願いを込めて左目を描き、かなったら右目も描く。招き猫は、手招きをする様子から福をよぶ。左を上げているとお客さんを、右を上げているとお金を招くといわれている。この図鑑は子ども向けではあるが、そのようなことをお母さん、お父さんも「へぇ」「あっ、そうだったんだ」と、改めて多くの事柄を知ることができる。親がわくわくしながら読んでいる姿を見せることは、子どもが本好きになるきっかけにもなるのだ。

■世界への第一歩でもある

 15年4月から使用されている新学習指導要領の教科書は「自国文化の再認識」がキーポイントである。国語では伝承、古典、社会では日本文化の理解、中学校の英語でも日本文化の説明をしている。この『にっぽんの図鑑』は実際に授業でも使用する小学校もあり、調べ学習や自由研究にも役立っているという。
 私たちが暮らす日本の文化と伝統を日本人の生活様式や価値観、信仰、技術、伝承から学ぶ。教育基本法では「郷土を愛する心」が重視され、学校教育では「伝統的な言語文化」の授業が行われている。そのような時代だからこそ「日本」を家庭でも意識することが大切だ。自国の文化を知ることは、世界への第一歩でもある。日本を誇りに、国際社会に羽ばたく子どもたちへ。
 この図鑑は、その時々の子どもの成長を確かめるための物差し(基準)にもなるであろう。『きせつの図鑑』『かず・かたちの図鑑』など小学館の子ども図鑑プレNEOシリーズは、累計135万部を超えた。(朝日新聞デジタル &M編集部 加賀見徹)

『sesame』2015年9月号(2015年8月7日発売)より
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17279