高野紀子(たかの・のりこ)東京都生まれ。著書は『和の行事えほん(春と夏の巻)』『和の行事えほん(秋と冬の巻)』『着物のえほん』(以上あすなろ書房)、『やまからのてがみ』『はるのあしおと』(以上「みのりのえほん」シリーズ 千世繭子・作 フレーベル館)など多数。現在、都内で絵画教室「小さな水彩塾」を主宰
高野紀子(たかの・のりこ)
東京都生まれ。著書は『和の行事えほん(春と夏の巻)』『和の行事えほん(秋と冬の巻)』『着物のえほん』(以上あすなろ書房)、『やまからのてがみ』『はるのあしおと』(以上「みのりのえほん」シリーズ 千世繭子・作 フレーベル館)など多数。現在、都内で絵画教室「小さな水彩塾」を主宰
『テーブルマナーの絵本』(あすなろ書房)
『テーブルマナーの絵本』(あすなろ書房)

 親も子も知っておきたい和食・洋食のテーブル作法『テーブルマナーの絵本』(あすなろ書房)が今、注目されている。2011年11月の発行以来増刷を続け、14年11月には14刷累計12万7500部に達した。お箸を使う和食、ナイフとフォークを使う洋食。正しい持ち方・使い方などの基本から、知っているようで知らない外食時に守りたいルールまで、イラストを中心にわかりやすく紹介する。
 この「知」の絵本は7歳以上の子ども向け、オールカラーで(1)和食のマナー お箸で食べる、(2)洋食のマナー ナイフ、フォーク、スプーンで食べる、(3)外食のマナー お店で食べる、の3部で構成され、尾頭つきの焼き魚の食べ方、パスタのじょうずな食べ方、どんなお店でも気をつけることなど38項目を学ぶ。テーブルマナーは、国や地域、そして宗教によっても違いがある。お箸については「お箸の国でもこんなにちがう」、カトラリーなどについては「いつかわたしたちもI」の項目で知ることができる。クマのクンちゃん、ウサギのウーちゃん、サーちゃん、タヌキのタキちゃん、キツネのツネちゃんの動物キャラクターたちが登場し、クンちゃんのおばあちゃんグマがやさしく丁寧に教えてくれる。

■作法には全て理由がある

「マナーの絵本だからといって、堅苦しくなることはいやでした。こうしなければいけません、こうしなさいというものにはしたくなかったのです。そのような意味もあって、やさしくやわらかい空気感を出すようにしました」という作者の高野紀子さんに話を聞いた。
 自分が口にするものが自分の所にくるまでに、こんなに大変なんだということを分かった上で、感謝の気持ちを込めて「いただきます」と「ごちそうさまでした」を言ってほしい。高野さんとしては、それだけでも伝わればという思いだった。お箸やお茶碗の持ち方・使い方は、その次のこと。ハウツーの部分と本当に伝えたいその気持ちの部分を、バランスよく見せることがポイントだったという。
 この絵本は、出来上がるまでに3年ほどかかっている。イラストの点数も多く、それだけでも1年以上を費やした。和食・洋食の様々な食器が掲載されているが、この料理はこのようなお皿に盛りつけることが多い、ということを子どもたちに見て感じてほしく、高野さんが全てデザインした。小道具一つひとつ、隅々まで作者の気持ちが込められている点も、見所があり楽しめるポイントだ。
 作法などというと難しいと思いがちだが、実際にこうした方が器を傷めない、こうした方が次の人が作業をしやすい、見た目に不快感を与えないなど、全てに理由があるのだ。お茶の世界の感動的な美しい動作にも、同様の理由があるという。

■皆で楽しくおいしく食事を

 高野さんはこの絵本が「家族のコミュニケーション・ツール」にもなればと思っている。今、お父さん、お母さんは忙しく、子どもだけで食事をすることが増えているという。しかし、テーブルで子どもに食事のマナーを教えてあげること、そして何よりも家族の食事の時間を持つことが大事なのだ。親子で一緒に絵本を見て、一緒に食事をしてほしいということも伝えたかったのである。
 子どもが大人になって会食などをする際に、これはどうすればよかったのか、と思うことがあるかもしれない。そんなとき、子どもの頃にお父さん、お母さんとテーブルマナーの絵本を見たことを思い出してくれたら最高だという。
 食べものやものを大切にする、人に迷惑を掛けない、感謝の思いと心遣いを忘れない、という気持ちで、皆で楽しくおいしく食事をするにはどうしたらよいか。この絵本がきっかけになるに違いない。(朝日新聞デジタル &M編集部 加賀見 徹)

『sesame』2015年1月号(2014年12月6日発売)より
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=16555