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第36回 酒が欠かせない高知の「おきゃく」文化

文・鈴木正晴

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天狗盃以外にも、菊水さんは様々な酒器を作っています

天狗盃以外にも、菊水さんは様々な酒器を作っています

 日本で一番好きな場所、高知県。生まれ故郷でもなければ、育った場所でもありませんが、本当に大好きな場所です。何よりも明るい。楽しい。

 宴会もまた楽しい。高知では、宴会のことを土佐弁で「おきゃく」と言います。お客さんを呼ぶから「おきゃく」と呼ぶのかなと勝手に理解しております。

 最初におきゃくに呼ばれたときには面食らいました。まずは紳士のたしなみ、「献杯」と「返杯」。杯を差し出し、なみなみと日本酒が注がれて飲み干すと、注いでくれた人が今度は同じ杯で日本酒を飲む。この杯のやり取りで絆を深めるんです。「献杯!」「返杯!」と、おきゃくはにぎやかに始まります。

 縁もたけなわになりますと、楽しいゲームの時間です。今の時代もいろいろなゲームがありますが、昔は今より楽しみが少なかったからでしょうか。さまざまな“お座敷遊び”が考えられました。

 例えば「菊の花」。みんなで心一つに歌いながら、お盆の上に伏せて置かれた杯を順番に開けていきます。小菊の花が出ると「あたり」。開いている杯の分だけ、お酒を飲みます。

「箸拳(はしけん)」。お互いが持つ箸の数を当てっこして、当てられた方が飲む。なんだか飲んでばかり。高知の人はお酒が強い!

「しばてん踊り」。カッパの妖怪の手ぬぐいを頭からかぶり、みんなでカッパになりきって踊ります。

 そしてお待ちかねが「ベクハイ」。可杯、と書きます。「べろべろの~神様はー。しょうじーきーな神様でー。」大きな声で歌います。独楽(こま)を回し、その独楽に指された人が、出た目の杯でお酒を飲みます(また飲むんだ)。絵の種類は、天狗(てんぐ)、おかめ、ひょっとこ。どの杯も、飲み干すまで置けない仕掛けになっています。例えば、ひょっとこは口の部分に穴が開いていて、指を離すとお酒がこぼれてしまいます。

 そうやって盛り上がった酒席で、みんな小さいことは忘れて楽しくなって、また明日!と気持ちよく家路につきます。まさに「日本酒文化」の姿がここにありました。

 このベクハイ、東京でもはやらせたいなと思い、ベクハイセットを作っている会社は無いかと探したところ……さすが!菊水酒造さんが、岐阜・美濃の職人さんに依頼して作っていることが判明しました。これは本当に偶然というか必然というか、びっくりしました。すぐに店頭で扱いはじめ、今では押しも押されもせぬ人気商品です。東京でもいろいろなところで「べろべろの~かみさまは~」という歌が響き渡っているのかと思うと、うれしくてなりません。

 日本酒に限らず、こだわりを持って作られたモノは、それを使う場で新しいコトを生み出して、それが日本の文化になってきたんだなあと感慨深いです。僕らが日々、お店で一つ一つのものを大事に売り続けるのは、モノを売りたいのではなくて、そのものの生み出した文化を伝えていきたいからだと、胸を張って言い続けたいと思います。


(更新 2016/3/23 )


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プロフィール

鈴木正晴(すずき・まさはる)

 株式会社日本百貨店・代表取締役社長、ディレクター兼バイヤー。1975年神奈川県生まれ。1997年東京大学教育学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。アパレル関連の部門で、海外とのビジネスを多く経験する中で、国内の“モノ づくり”文化に根差したすぐれものをより広いマーケットに広める一助となりたいと考え、2006年3月伊藤忠商事を退社。2006年4月に株式会社コンタン(現・株式会社日本百貨店)を立ち上げる。2010年12月には東京・御徒町に、日本の優れものを集める小売店“日本百貨店”を オープン。食・雑貨・衣料雑貨など、全国から様々なこだわりの商材を集め、作り手と使い手の出 会いの場を提供している。著書に「日本百貨店」(飛鳥新社 2012/12)