クーポン、マイナス200円。

内藤みか
 先日、小説の下準備として、お金持ちのお坊ちゃんにインタビューをした。今度の小説にそういう登場人物がいるから、実際どういう生活をしているのか知りたかったから。

 知り合いに紹介していただいたのは、21歳の社長の息子さんだった。
 新宿の雑踏の中に現れた彼は、ヴィトンのバッグをおしゃれに斜め掛けした姿でこんにちは、と目の前の熟女に柔らかく微笑んでくれた。このバッグは昨年のお誕生日に両親からいただいたのだという。私の周りのヴィトンを持っている若い男の子は、皆、女の子から買ってもらっている。親がお金持ちというのは、女の子に貢がせる必要もないのだなと妙に感心した。

 そんな彼と入ったお店は、ビュッフェレストラン。若い男の子とは大抵食べ放題のところに行く。皆、よく食べるからだ。しかし、彼は食べない。自宅暮らしなので、たっぷり朝ご飯も食べてきたらしく、がつがつしていないのである。

 彼と話をしていると、お金がありあまっているとしか思えない生活ぶりだった。なにしろ、自宅にホームエレベーターもあるけれど、最近誰も使っていないというのだから。必要ないのになぜつけた!? と突っ込みたくなってしまう。

 そして会計時、ハプニングが起きた。
 私のケータイでとあるものがうまく表示できなかった。それはお店のドリンクバー無料クーポン。これでおひとりさま200円も安くなるオトクなものなのだ。
 しかしうまく表示できず、ぐずぐずしているうちにどうしたのと聞かれ、結局お坊ちゃんのスマホで表示していただいた。ものすごいお金持ちの前で200円引きのことで騒ぐのもどうかと思ったけれど、1円でも安くなるならば、使わないともったいないではないか。

 それにしてもお金持ちはすごい。別荘もある、衣装部屋もある、英語は外国人の家庭教師が来て教えてくれる。ついでに彼は顔もイケメンで、何不自由ないというのはこういうことを言うのだろう。
 けれど最後に彼は言った。

「お金ってある段階を超えると使い道がなくなるんです。家も車も服もあるし、これ以上何に使ったらいいんだろう? と思う瞬間が来るんですよ」

 ああ、一度でいいからそんな贅沢な気分に浸ってみたい。せめて小説の中では浸ってみよう。リアルお坊ちゃんのおかげで、良い作品が書けそうである。

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