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バーで10分、2100円。

文・内藤みか

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 もう10年も通っていた新宿2丁目のバーが閉店することになった。

 そこは若い男の子がカウンターの中にいる店で、取材と称して訪れてからすっかりハマり、年に数回とはいえ通い続けていた。バツイチとなってからは、このお店で楽しく飲んで騒いで、淋しさを紛らわせた夜もあったのに。

 閉店の知らせを受けて、私は、マスターのもとへ急いだ。Jリーグを観戦した足で向かったので、店に着いて時計を見ると、終電まであと10分しかなかった。僅かな時間でもいいからお店にさよならを言いたかったのだ。

 いつもはお酒と簡単なおつまみしかないバーは、サンドウィッチや唐揚げやポテトフライがたくさん並べられていた。すべてマスター(60代・男性)の手作りだという。
さあ食べろというので、サンドウィッチを何切れもいただいた。挟まれているお肉が少ししょっぱくて、なんだかますます悲しくなった。

 親切なマスターがいて、いろいろと身の上を心配し、かまってくれ、時には叱ってもくれるバー。ありがたい場所だと思うのに。近ごろの若い男の子は、もっとあっさりした店を好んでいるのだろうか。

 スタッフの男の子達にこれからどうするのかと聞くと、何人もが普通のサラリーマンを希望していた。「それができればいいけどなあ。宵っぱりのお前らにできるかなぁ」とマスターがからかうように笑った。いつものような軽妙なやりとりなのに、もうそれを聞くことはできないのだ。

 飲み代の2100円を支払って店を出て、駅に向かってダッシュをしようとして、二丁目の交差点周辺で大量にたむろしている若者達に目が行った。二丁目を訪れる人は、決して減ってはいない。彼らはいったいどこで飲んでいるのだろう。

 家に戻ると、今度は3年間通った原宿のギャルソンカフェが新宿に移転するという知らせが入ってきた。慣れ親しんだ店が、次々形を変えていく。いつも迎えてくれると思っていた故郷のような店が変わるのはつらい。

 でもよく考えたら小説の世界も同じだ。いつまでも同じような小説ばかりがウケるわけではない。私も私なりにマイナーチェンジしていかなくては、と自分に言い聞かせた夜だった。


(更新 2012/8/ 1 )


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プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

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