18年前、私がまだ独身だった頃、フェロモン香水なるものを試したことがあ る。ブタの睾丸から抽出したエキスが入っているとかで、ひどく生臭くて、1万円もした。そして道を歩くと、犬が何匹も追いかけてきたけれど、人間の男は誰も追いかけてきてはくれなかった。

 そんなこともあったので、今までフェロモン香水にあまり食指が動かなかったのだけれど、偶然見つけた広告には、ヒトフェロモ ン配合、とあったので欲しくなった。どうやら18年のうちに技術は進 歩し、人間からエキスを取り出すことに成功したらしい(詳しいことは書かれていなかったのでよくはわからなかったけれど)。 しかも値段は998円。こんなに安く秘薬(?)が手に入っていいのだろうか。

私は早速フェロモン香水をふりかけて街へ出かけた。ちなみに匂いは、少しきついムスク系、という感じ。街では犬は寄ってはこ なかったけれど、乗った電車では2人の男性が身体をくっつけてきた。40を過ぎると車内でそのようなハプニングは滅多に起こらなくなるので、久しぶりに胸がざわめく。もしやこれは香水が効いているの ではないだろうか。

ちょうどいいことに、私は3日連続で男性に会ったので、効果を実験してみることにした。

 1日目の男性とは一緒に歩いている時に、手と手が触れ合った。今まで御手に触れたことなどなかったので、私の中ではこれは事件だった。2日目の男性とは、帰り際に彼のほうから手を差し出してくれて、私たちは固く握手をして別れた。これも私の中では うれしい驚きだった。

 そして3日目。最近の私の本命クンと待ち合わせた。もともとつれない態度の彼なのだけれど、今回も特に大きな進展もないまま お別れの時間となってしまった。もちろん触れ合いなど皆無。触れ合うどころか、会話すら弾まなかった。

 ああ。フェロモン香水よ、どうして一番効いてほしい場面で威力を発揮してくれないの? しばらく嘆いてふと気づいた。無反応だった彼は、今、ひどい花粉症で、鼻がきかない。そうか、原因は彼の鼻だ。そうに違いない。

 ということで、彼の花粉症が治った頃に、再び香水の実験をしてみようと思う。......また彼が会ってくれればの話だけれど。