息子が電車で1時間以上もかかる高校に通学しはじめて、2週間が過ぎた。以前通っていた私立中学よりもさらに30分も遠い。定期代も月々10000円もかかるし、朝は6時30分には家を出なくてはならない。

 遠いのに毎日よく続くなと感心する。何しろ息子はつい先日まで不登校児だった。もう半年以上教室でワイワイ、などという状態を経験していない。果たしてやっていけるのか、私は内心ハラハラしている。

 しかし私の心配をよそに、息子はまだ1日も遅刻していない。それどころか部活もなんと理科系とパソコン系とを兼部し、さらに学校の補講も受け、毎日放課後めいっぱい学校に残っている。どうやら大変楽しく通っているようだ。

 入学当時、息子には知り合いは誰もいなかったが、息子の名を知っているクラスメイトがいたという。「お前、模試でずっと数学1位だったヤツだろ!?」と聞かれたそうだ。模試有名人みたいなものだったらしい。しかしだからといって息子は数学でずば抜けているというわけではない。難問のため彼が取得をあきらめかけている数学1級の猛者もいるという。そして半分ケンカしながら数学について語り合っているらしい。

 受験に頑張った息子は前の中学より偏差値が16も上の高校に進んだ。部活には天才プログラマもいるらしく、どうやら生徒さんの知力はかなりのようだ。この学校で生涯の友ができればいいと私は彼の話を聞きながら願う。

 とにかく今の学校は居心地がいいと息子は言う。前の学校は管理的で、忘れ物をすると忘れ物グラフの目盛りがひとつ増えた。目盛りが10になると罰掃除をしなくてはならなかった。「しつけ直している」と担任の先生には冷たい声で言われた。そう、家庭でのしつけが悪いから迷惑していると言わんばかりに。

 息子の忘れ物癖は直ってはいない。しかし今の学校は忘れ物について非常におおらかだ。忘れましたと言うと、そう、としか言われない。罰もない。困るのは自分なのだから、なんとかしなくてはと自分で気づくのを先生がたは待っているらしかった。

 2週間目の今日、「明日は体育だ!」と寝る前に持ち物を鞄に詰めている息子がいた。こんなことをしている彼を見るのは初めてだった。最近は友達と放射性物質セシウムの化学式について考えているという。今の学校は、たくさんのことを息子に教えてくれている気がする。遠いけれど頑張って3年間通っておくれよ、息子さん!