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ピアノ男子、700円。

文・内藤みか

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 有志によるピアノ発表会が行われるというので、行ってみた。友人の作曲家さんが「ピアノを弾く独身男性が何人も来るよ」というので、思わず参加してしまったのだ。

 しかし1人1曲披露しなくてはならないと言われて困った。ピアノなんて25年間人様の前で弾いてはいない。Jポップでごまかそうと松田聖子さんの「ガラスの林檎」をそっと練習した。

 でも発表会当日。集まった20人の視線に気圧され、気づいたら途中で1オクターブ上を弾いていて裏声のガラスの林檎みたいになっていた。さらに他のみなさんの上手いこと。ショパンやバッハが優雅に流れ、まるでレベルが違うので、身が縮んだ。

 こんな恥ずかしい思いをしてまで参加したのは、「ピアノ男子」という私の周囲には見受けられないタイプとお話をしてみたかったからだった。集まったのは普段はIT系や金融系などのデスクワークをしている人がほとんどで、ピアノは休日に趣味で弾いているという。

 演奏会は青山のスタジオを借りて行った。スタジオ代を皆で割るとたったの700円。そして終演後は近くのおしゃれ系居酒屋での2次会へ......。

 普段は歌舞伎町あたりで明日住む家もないような家出同然の男の子に焼き鳥をごちそうしているような私なので、青山の清潔感ある居酒屋と優雅にピアノ談義を楽しむ男子達がまぶしくてならなかった。彼らには防音を施された住処があり、ピアノを弾く心の余裕と技術がある。それはまるで別世界の美しいできごとのようだった。

 私は隣に座った24歳の上品な白シャツが似合うメガネピアノ男子に「結婚するときはピアノを持っていくの?」と尋ねてみた。すると彼は困ったような顔で、ピアノがない毎日なんて考えられない、というようなことを言った。ピアノが弾けるようなお部屋は家賃が高い。少なくとも、持ち物は着替えくらしかない歌舞伎町の家出男子より、ピアノ男子と暮らすのはお金がかかりそうだった。

 ピアノ男子達はとても知的で穏やかで素敵なかたがたばかりで、場違いな私も心底癒された。いいなあ。お部屋でお茶を飲みながらピアノ男子の演奏が聴けるような生活って、きっと素敵なんだろうなあ......。

 昔はピアノを弾ける女性がモテたものだけど、これからはピアノ男子が女性にモテる時代がやってくる気がしてならない。
  


(更新 2010/2/25 )


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プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

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