実は文人のお墓参りが好きで、今までにも林芙美子や徳冨蘆花のお墓に詣でている。

 今回は近所に来たので太宰治と森鴎外のお墓に行った。このおふたかたは同じお寺の斜め向かいという墓位置関係だ。太宰治がこの清潔な墓地に眠ることを希望したのだそうだ。

 娘とともに静かにお墓に頭を下げた。私はいろんなことを考えた。いつかは自分も墓に入る。その前にいったいどういう文章を遺せるだろうか。その問いをお墓は突きつけてくれる。

 ランチは娘とパン屋のビュッフェに入った。サンドウィッチ、ピザなど色とりどりのパンを好きに食べて、スープとドリンクもついて840円、子ども500円はうれしい。

 娘はさっそくチーズとタマネギが載ったふかふかのパンにかぶりついた。私は踊るような足取りでサンドウィッチを皿に盛り、席に戻る。

「ねえどのサンドがいい? ハム? タマゴ?」
 娘の顔を覗き込むと、大きく目を見開き、フグのように頬を膨らませている。
「どうしたの!?」
 慌てて語りかけても返事がない。どうもパンを詰まらせたらしい。

 私は慌てた。私の声が大きかったのか店員さんがこちらを見たので、状況を伝え、私は水を娘に持ってきた。が、娘は口を結んで飲みたがらない。無理矢理口をこじあけさせると、溶けたどろどろのパンと唾液がいっぱいに溢れた。そのまま背中をバンと叩き、指を喉に突っ込むと、娘は店員さんの持ってきてくれたボールに嘔吐し、パンは無事排出された。

 パンが出てくるまで1分もかかっていないと思うけれど、私には本当に長い時間だった。目をひんむいている娘の顔も恐かった。そして何より娘が食べ物を異様にゆっくりと噛み砕いて食べるようになり、食事の時間が長くなった。

 食べ物を喉につまらせて亡くなる人のニュースはよく聞くけれど、娘のようにどうにか除去して助かる例も数多いのだろう。お墓参りをしたそのすぐあとに娘のピンチに遭遇したので、生きることについてたくさん考えるようになった。娘は生きていて温かい。そのことがどんなに幸せなことか、最近しみじみ考えている。