最近、モデル志望の男の子と食事をした。イタリアンランチ2000円を2人分は私が支払った。
 彼は22歳。今まで肉体労働をしていたのだけれど、体を壊し「モデルなら」という気持ちで上京し、飲食店でバイトをしながらオーディションを受け続けているという。

 彼は背は高い。けれど背が高い以外に特徴がない。顔立ちは悪くはないのだろうけれど、歯が汚れている。そして、一緒に食事をしていていると、ナイフとフォークがキーキーと音を立てる。
 こういう男の子を見ると、私は「なぜ背が高いとモデルと安直に考えてしまうのか」と考えてしまう。 

 私と食事をしたモデル志望くんは、デザートのチョコレートケーキもしっかり平らげ、美味しかったと笑顔をみせた。
「モデルになるために何か努力をしてる?」
 私が意地悪く聞くと、ファッション誌を眺めたりはしているという。ウォーキングやポージングを練習してみたら? と言うと、
「そういうことは事務所がしてくれると思うんで」
 と即、却下された。

「体なら大丈夫ですよ、筋トレは毎日欠かしませんから」ということだけど、筋トレだけでモデルとして通用するものなんだろうか。
「事務所を受けて落ち続けてるって言ってたよね。いつまでも決まらなかったら、その時はどうするのかな?」
 意地悪く投げたその質問に、彼は1分近く黙った。そして、「どこかには決まると思うんで」と自信なげに答えた。

 その翌週、また別の22歳のイケメンくんと食事をした。彼は大手事務所に所属が内定しているが、それだけでは食べていけないだろうから居酒屋でのバイトを続けるという。
 先週会ったモデル志望くんの話をすると彼は呆れた。

「よっぽど大きな事務所じゃないとレッスンの世話まではしてくれませんよ。そいつ、甘いですよ。自力で磨きをかけていかなくちゃ、オーディションで勝てないのに」
 そうだよねと頷きながら、私はこの彼にもレッスンには通ってるの?と尋ねた。すると「今はバイトがあるんで通う時間がないんですけど」と口ごもりつつこう胸を張った。

「でも大丈夫ですよ! 毎日筋トレして鍛えてますから!」
 きれいを目指す男の子が増えるのはうれしいけれど、彼ら全員に行き渡るほどの仕事量があるわけもない。
 仕事にありつけない男の子達の行く末が、ちょっと気になる私なのだった。