昨年、私には好きな男性がいた。

好きな人とは、お揃(そろ)いのものを付けたくなる。そのイケメンくんはグッチが好きだったので、グッチのストラップにしようと思いたった。普段は100円ショップのストラップばかりの私なので高級ブランドのストラップを買った時は緊張した。

彼は「ありがとう!」と喜んでくれて、しばらくは付けていてくれた。彼のズボンのお尻から、しっぽのように黒いストラップが飛び出しているのが可愛らしかったのに。この愛おしさを見ることができたのだから、17000円なんて安いものだ、と思っていたのに......。

ある日、彼の携帯にストラップがついていないことに私は気づいた。どうしたの、と聞くと、残念ながら取れてしまった、と申し訳なさそうに答えた。直そうと思ったけれど金具のところが外れて、修復不可能で、と。

いいよ。また別のストラップを買おうね。

相方を失った私の赤いストラップは淋しげに揺れた。そして、それが合図であったかのように、私と彼が会うこともなくなった。

いいかげん、外さなくてはならない。わかってはいたのだけれど、このストラップに罪はない。高かったし、とずるずると付け続けてきた。

先日、定額給付金で出張ホストを呼んだ。デートする人が誰もいないよりは、誰かいたほうがいい。どうせデートするなら若くてイケメンがいい。そんな私のワガママを叶えてくれるのは、今は出張ホストだけだから。

待ち合わせ場所に現れた20代前半の男性は、アルバイトと出張ホストとを兼業しているとかで、だから携帯も2つ持っているんだ、とテーブルの上に置いた。そのうちのひとつは私と同じ機種で、二人でびっくりした。そしてなぜかストラップまでグッチだったのだ。

すごい偶然。俺たち気が合うね、と嬉しそうな顔の彼に、私は曖昧(あいまい)に笑った。ついこの間まで、同じ光景がカフェのテーブルの上で繰り広げられていた。お揃(そろ)いのストラップに私はなんともいえない安心感をおぼえていたのだった。

彼の2つ目の携帯にはストラップが付いていなかった。私は思わず自分のものを外し、

「これ、あげる」

と彼に差し出した。

「いいの?」

顔を輝かせた彼に私は頷(うなず)き、ハダカになった自分の携帯に目を落とした。やっとこだわりが取れて楽になったかのように、静かにテーブルに横たわっていた。