楓(原田さん提供)
楓(原田さん提供)

 20年前の5月、大学生だった次女は近所の通称犬おばさん(すでに猫も犬もいっぱい飼っている)に声をかけられた。

 まるでマジックのように、おばさんのポケットからヒョイと取り出された黒い生きものがミャーミャーと鳴いている。近くの公園に捨てられていたという。

「綾ちゃん(次女の名前)、もらってくれない?」

 その赤ちゃん猫はまだ何も見えていない。へその緒も付いたままで、母親の乳を探してか細い声で鳴く。次女はまるで魔法にかけられたように思わず両手を差し出していた。

 のちに楓(写真)と命名されたキジトラの雄猫は、かくしてわが家の一員となったのである。

 3人の子どもがいる私たち夫婦はずっと共働きである。それまでに飼ったのはインコと文鳥、金魚、メダカくらい。今にも死にそうなこのか弱い生命を、果たして守れるだろうか。

 絶対使命を請け負い、家族みんなで奮闘した。特に次女は獣医さんに教わったとおりにミルクを口に含ませ、下の世話もしっかりやった。

 後ろ脚に少し麻痺があるものの、楓はいつの間にかうちのアイドルとなって元気いっぱいに家の中を駆け回り、年を重ねていったのである。

 子どもたちは家族ができて家を出たが、楓は2回の引っ越しにも付き合ってくれた。

 ときどきみんなが来てにぎやかになるが、そんなときは自分の箱から出てこない。

 次女はつれないと言うが、楓は老夫婦との静かな生活が好きなのだ。楓との20年は、私たちにとってかけがえのないものである。ありがとう楓。これからも長生き頑張ろうね。

(原田忍さん/東京都/74歳/主婦)

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