茶太郎 (石原さん提供)
茶太郎 (石原さん提供)

 5年前のある朝。勝手口で子の鳴き声が……。

 人や車が来た気配もなく、ほぼポツンと一軒家で、子猫が一匹で来られるような場所ではない。空から降ってきたとしか思えない。

 飼ってやりたいけれど先住猫が2匹もいる。すると夫が「神様からの誕生日プレゼントじゃないの? 2匹も3匹も変わらないだろ」。その時私は誕生月。妙に納得した。猫の色は白茶。名前は私が「茶太郎」(写真、雄)とつけた。

 茶太郎はベタベタ甘えるでもなくガツガツ食べるでもなく、抱っこが苦手のひょうひょうとした子だった。

 でも寝る時だけは赤ちゃんに変身。左脇にもぐりこみ延々とフミフミチュッチュ。いつもパジャマは唾液でびしょ濡れ。「もうおしまい」と抱き寄せ、一緒に眠る至福の時。軽いイビキも可愛くて。夫と寝る時も同じで、「チャーのチュッチュで寝不足だよ」と夫は苦笑い。一匹増えたおかげで笑うことは倍になった。

 6月5日の夜から茶太郎が見当たらない。翌朝も。外にはいない。まさか家の中? すると寝室の隅の椅子に長々と横たわっていた。その様子に異変を感じ、恐る恐る触ると硬く冷たく剥製のような無機的な手触り。

 食欲もあり元気に木登りをしていたのになぜ? 夫は「こんなに硬くなっちゃって……」と何度も体をなでていた。

「ペットには使命があり、家族のマイナスを背負うことがある」と聞いたことがある。わが家を選んで舞い降り、与えられた使命を全うして天に召されたのか。想像するだけで切なく、また有り難く、潔く旅立った茶太郎が愛しくて胸が痛む。

 見えないけれどそばにいる。庭に、ソファに、木の上に、あちこちにあの丸っこい白茶色がちらつく。チャー、チャタ、チャチャ、お疲れさま。ありがとう。

(石原和子さん 山梨県/65歳/主婦)

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