「こういうのも、老老介護っていうのかねぇ」

 祖母は私と二人がかりで愛犬ポポ(写真、雄)のおむつを取りかえると、ふうっと肩で息をついた。大型犬ポポの体重は、米寿を迎えた小柄な祖母に匹敵する。

 祖母は祖父が亡くなった12年前、一人暮らしのさみしさから、大型犬の室内飼いを始めた。家族は正直戸惑いを隠せず、祖母がショックのあまり、ぼけたのではないかと思ったほどだ。

 いくらレトリーバーが賢くても、散歩量が多くエネルギッシュな大型犬を、喜寿近い人間がこれから十余年も飼ってみとるのは至難の業だからだ。

 ポポという名は、クリーム色の毛がタンポポのわた毛のようだったことに由来する。命名者は祖母。しかし、そのご自慢の毛並みも今ではずいぶん退色してくたびれてきた。
「人も犬も、生まれたときと死ぬときは、しもの世話がいるんだねぇ」。母はおむつでかさ高くなったポポの尻をポンポンとたたいて、しみじみ言った。

「犬に人間の食べ物は……」。ドッグフードにソーセージの輪切りを混ぜる祖母にやんわり言うと、「ポポもあと少しの命なんだし、好きなものを食べさせてやりたいねぇ」。山盛りの餌に頭から突っ込むポポを見やる祖母は、食べ盛りの孫を愛おしく見守るような優しい目をしている。

 食べ終えたポポは、戸棚のすき間の狭いところに突っ込んでいっては、頭をぶつけている。「犬にも認知症があるんだねぇ。隅っこにばかり突進して」と笑う祖母自身にも、認知症は確実に忍び寄っている。
 今、飼い主が老人ホームへ入居した後の、ペットの問題が叫ばれている。預かり犬のボランティアをする人も増えているようだ。もし祖母が施設へ入ったら、ポポを預かるつもりでいる。

[高田智子さん 滋賀県/33歳/ブドウ農園スタッフ]

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