高校卒業を控えた冬のことだった。部屋に隠した子があっけなく見つかり、学校へ行っている間に猫嫌いの母に捨てられてしまったことがある。暮れかかる2月の寒空を泣きながら捜し回ったが、小さな黒猫は見つけられなかった。

 数十年が経ち、記録的な大雪が降ったある2月の朝、預かっていた臨月のノラ猫が5匹の子を産んだ。それぞれ里親を見つけて送り出したが、1匹だけ戻ってきた。子猫を届けたときに、夜は人がいなくなる雑貨店で飼われることがわかり、結局お断りして連れ帰ったのだ。マーコ(写真、雌)と名付け、自分で飼うことにした。

 生まれたとき125グラムだった黒猫マーコは12歳になった。撫でたとき、指に触れる乳腺のしこりを見つけた。いやがって逃げ回るのをキャリーに押し込み、受診した病院で乳腺腫瘍と診断された。

 手術はせず、その都度処置を相談しながら、家で看護することにした。

 病院から帰るとマーコは一目散に逃げた。一番怖いときに逃げ込むエアコンの上から下りてこない。ご飯も食べないで隠れている。「もう病院へは行かないよ、ごめんね」と何度も声をかけて待った。そう、もう病院へは連れていかない。

 やがて私がソファで寝ころんだのを見定めて下りてきた。「そこ、いい?」というように私の目を覗き込む。脇をあけてやると、フワリと寄り添い丸くなるマーコをギュッと抱きよせる。

 マーコは私の不注意で母に捨てられた、あの黒猫の生まれかわりなのだとずっと思っていた。まだ名前もなく、ひたむきに私に命を託したあの子猫だ。

 隠して飼えると思った至らなさに苛まれながら、その命を守れなかったことの赦しを請うように、いま黒猫マーコを抱きしめている。

(加藤真由美さん 岐阜県/64歳/自営業)

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