僕は足腰が不自由なので椅子に腰かけて農作業をしている。手車に道具を乗せて畑へ行く途中、鶏小屋の前を通ると、1羽だけ飼っている鶏のハピーが羽をばたつかせ、外に出してくれと騒ぐ。扉を開け、背中をなでてやると、先に立って畑へ行く。

 僕が椅子に腰かけて草を刈り始めると手伝うつもりか草をついばみ、その辺をかき回す(写真)。鎌を使っているので危なくてしょうがない。

 ハピーはひとしきり土をかき回し虫などを追った後、姿を消す。椅子を動かしながら草を刈り、野菜の手入れなどに没頭していると、もう夕方だ。そして、「ハピー」と呼ぶと、どこかから姿を現す。

 幼い頃から鶏を飼っていたが、就職して社宅に入ると飼うことができなくなり、鶏のことも忘れた。

 定年になって故郷に戻ったが、どうも意欲がわかない。鬱々としているときにふと、昔鶏を飼っていたことを思い出した。そうだ、鶏を飼おう。

JAに頼み、孵化後4~10週の中雛を4羽買った。これは正解だった。鶏と関わり合っていると憂さを忘れ、生活に張りが出た。卵も産むし、満足していた。

ところが冬、大雪の日に野獣に小屋を襲われ、一挙に4羽とも奪われてしまった。網の破れ目をビニールシートで補修しておいたのが悪かった。怒りと悲嘆で仕事も手につかない。

最近はJAが鶏を扱わなくなり、ペットショップに頼んだら、来たのは孵ったばかりの初生雛だった。これを普通の人が飼うのは難しいが、僕には幼い頃からの経験がある。箱に入れて抱いて寝たり、湯たんぽで温め2、3時間ごとに餌を与えたりして何とか育てた。

ハピーは卵を産むようになり、2歳になった今も僕を親と思って懐いている。

(山岸重治さん 長野県/86歳/無職)

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