「幸多君(写真、雄)、頑張ったね。偉かったね」

 私は涙声をふり絞って、そう言った。前日に手術を受けた幸多を迎えに行ったときのことだ。上半身を包帯で覆われ、3本足で診察台にお座りする幸多の姿を見て、私は立ち尽くした。3年前のことである。

 右前脚と鎖骨、肩甲骨を切り取った手術痕は胸から背中に及び、触れると壊れそうに見える。「ニャッ」と私を見上げる幸多の頭を、「おうちへ帰ろうね」と、恐るおそるなでた。

 抗生剤が効かない右前脚の腫れにがんの疑いがあるとかで、大学病院を紹介された。そしてその病院に行くと、やはり骨肉腫で有効な治療法はない、転移の心配もあるし痛みもひどいので、脚を切断することが最善の対策、と言われた。

 丁寧な説明に納得はしたが、私は幸多の断脚の決断への恐れに打ちのめされていた。

「なぜ、神様は幸多のお手々が欲しいのだろう。どうしよう、どうしよう……」

 ものを言わない幸多を抱きしめて、私は数日間苦悩した。

 動転と煩悶の末、脚を床につけないほどの痛みから幸多を解放してやりたいと決意した。

 手術当日は1晩入院する必要があるため、執刀してくださった獣医さんに幸多を託して帰った。その帰り道、何度も道端に車を止めては涙を拭った。

 幸多は無事に手術を乗り越えた。「家の中なら3本足で十分生きられる。激しい痛みがなくなり、生活の質は良くなる」という獣医さんの言葉どおり、幸多は生きた。

 1年が経ち、3本足の生活にやっと慣れた秋のある日、恐れていた肺への転移で幸多は逝った。庭に埋葬し、傍らにモクレンの苗を植えた。享年16(推定)だった。

(加藤真由美さん 岐阜県/63歳/自営業)

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