彼女(写真)の前に飯の皿を置きながら、「このごはん、食べないとぶっとば~す!」と小さく呪文をとなえます。

 レトルトパックをはさみで切っていると、彼女はワーン、ワンガンと声を出して催促します。中身をスプーンで出す時にすでに鳴き方が変わり、そそられ具合がわかります。
「ンゴワ」と忙しく舌なめずりしながら催促されれば、買い置きの数種類の中から私の選んだ猫飯の勝ち。そうでなければ、あえなく猫マタギとなり果てます。

 座って私を見上げていた彼女の視線が皿と一緒に下がっていって、床に置かれたとろみつきのチキンをなめはじめました。飼い主の私、左手で小さくガッツポーズ。ウフフ!
 次の瞬間、与えた時の形のとおりのつややかなチキンをのせたまま、皿はそこに置き去りにされました。あはは! やられた。またぎおった!

 こうして17歳のばあさん猫と私の戦いが、朝ごとの日課のように、儀式のように繰り返されます。

 時には2口3口食べて、横に立つ私を見上げます。ねだるように、訴えるように、上目遣いに「ねぇ、これ、ちょっと違うんだけど」とサインを送ってきます。

 食べるほうがばあさんなら、与えるほうも人間のばあさん。負けてはいません。「そんな顔してもだめだよ」と言い放って彼女から視線をそらします。

 再び食事を続けているように見える猫の背中を眼下に見ながら、「あはは、どおよ!」。心の中で勝ちどきをあげると、彼女は皿の上から姿を消しました。猫マタギの瞬間であります。

 今、私の中では「そぼろ」という娘のつけた可愛い名前を返上させて、新しい名前の進呈式を準備中。すなわち「モンクタレスカヤ」──どおだ!!

(今井七重さん 愛知県/70歳/自営業)

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