家の近くまで来ると自転車から降り、門の前へとそっと近づく。あっ、今日は出会えた!

 玄関ドアのすりガラスの向こう、淡いオレンジ色のライトに浮かぶ三つのシルエット。それが心を幸せにしてくれる。

 シルエットの主は父犬と2匹の息子(写真)である。しかし、それに出会うためにはタイミングが重要である。日が落ち、暗くなってから、家族の中の誰よりも先に家に帰った時にしか出会うことができないのだ。

 門をそっと開けると、真ん中の影が首を少しかしげる。弟のクーだ。
 次いで、クーの影より一回り大きい左端の影がそわそわしだす。クーと半年違いの兄、リーだ。

 背丈は一番低いが、ずんぐりした父親のダンディーの影は、威厳を保つかのように落ち着いている。

 鍵を差し込むカチッという音がすると、人が帰ってきたことをはっきり認識したクーが立ち上がり、鳴きだす。ドアを開けると、甘えん坊のクーは飛びついてくる。

 兄のリーは喜びのあまり、廊下の奥まで8の字を描きながら2往復する。8の字走行だ! 父親のダンディーも、もはや威厳を保ちきれず、右往左往する。

 わが家の愛犬たち3匹のこの歓迎を受けると、仕事の疲れなどたちまち吹っ飛んでしまう。その幸せはいつまでも続くものと思っていた……。

 だが3年ほど前、ダンディーは膵炎で倒れ、半年に及ぶ闘病生活の末、16歳で天に召された。その数カ月後、リーが14歳で白内障のため視力を失い、今では腰の曲がった17歳のクーが玄関で出迎えてくれるだけだ。

 でも、たとえ〝その日〟が訪れたとしても、心の中の3匹の幸せのシルエットは、いつまでも消えることはない。

(岩瀬 清さん 東京都/62歳/地方公務員)

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