ゴローという名の犬(写真)を飼っている。
 雄、一見チョコラブ風の雑種。時々「土佐犬?」と聞かれるが、ゴローはあまりうれしそうではない。
 朝、まだ明けきらない5時前、階下でゴローが第一声をあげる。散歩の催促だ。
 外に出ると、ゴローは喜んで全身を躍らせ、私を急かすように歩きだす。
 草むらではしゃぎ、山の鳥を追い、ため息をつき、空を見上げる……。
 12歳を超えて毛は色褪せ、口の回りには白いものが目立つ。しかし、今でも悲しいくらいすべてに全力だ。吠え、走り、食べ、家族を大歓迎する。
 ところが、この家族思いが大問題を引き起こした。
 飼い始めて1年たったころのことだ。ある日、保健所の職員がやってきた。
 家族に向かって吠えるときのゴローの声は、他人の耳には怒りまたは抗議の声に、甘える声は悲嘆のうめきに聞こえるらしい。
 保健所の人に「近所から犬を虐待しているという知らせがあった」と言われ、応対に出た妻は絶句。
 ゴローがあまり吠えないよう、しつけ本を手当たり次第に購入し、声が響かないよう小屋を移動させたり板囲いを作ったりした。訓練士の指導も受けさせた。
 結果はどうかといえば、「なんだかなー」というのが実感だ。犬を飼うこと自体、虐待の要素があるのでは?と思うことさえある。
 とにもかくにも、それから11年の歳月が流れた。
 散歩の途中、私はゴローに話す。「かんべんな、もっといい飼い主がいたはずだね」。こうも言う。「お前はダメ犬だな。損したよ」
 ゴローは立ち止まり、いつものように空を見上げる。何か言いたげであったが、また元気に歩き始めた。
 くよくよ馬齢を重ねる私よりゴローははるかに偉い、なんだかそんな気がする。

(高安利幸さん 静岡県/65歳/派遣社員)

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