第1168回 忘れられない捨てられのんちゃんの目 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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第1168回 忘れられない捨てられのんちゃんの目

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 春が来た。しかしその前にまず猫が来た。1年前のことである。「捨てられのんちゃん」(写真上、雄)は、その半年前から近所をうろつくようになっていた。体は痩せこけ、魚の胴に猫の顔、しっぽ、脚がついているというスタイルだった。
「置き去りちゃあちゃん」(写真下、雌)は、冬の朝、車のエンジン音が遠ざかっていった後、激しく鳴いていた。どちらも1歳前ぐらいだった。
 私たち夫婦にはすでに猫がいた。しかし目の前にも猫がいる。体調管理を最優先にして長生きすることに決め、寒波の来襲に合わせて2匹の猫を家に入れた。
 先住猫は気分を害し、やたらと攻撃的になった。同じ部屋にはおけないので部屋を分け、廊下に出すときは他の猫に注意するなど、けっこう大変だった。
 そして、春一番より早く新顔の2匹に春が来て、そろって春の嵐に突入した。
 ドスの利いた声、演歌のようなこぶしを利かせた声。この体でと感心するくらい大きな声で鳴き続ける。避妊手術の予約は2日後でないと取れない。明後日にはこの状況から逃れられる、と励まし合いながら耐えた老夫婦である。
 待ちに待った手術の日、つれと目の下のクマが日に日に濃くなった顔を見合わせて「万歳!」と叫んだ。
 動物病院に預けた帰り、つれがのんちゃんの目が忘れられないとつぶやいた。「僕、また捨てられちゃうの」と言っていたとしょんぼりしている。
 というわけで、翌日一番で迎えに行った。猫は犬のようには喜びを表さないが、きっとうれしかったと思う。手術のストレスからか、のんちゃんはつれの膝の上で、家に着くまで震えていた。一方、ちゃあちゃんは案外平気だった。
 こうして嵐は去り、平穏な日が戻ってきた。

(谷本敏子さん 佐賀県/66歳/主婦)

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(更新 2016/3/17 )


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