第1147回 前の飼い主を忘れられない?

週刊朝日
 風太(写真)は3年前、動物保護施設からわが家にやって来た。15歳の雑種のおじいさん犬である。
 最初の名前はゴン。飼い主の入院で行き場をなくし、12歳で施設に引き取られたとき、新しい人生をとファニーと改名されたそうだ。
 うちにきたとき、どう見ても「ファニー」というご面相ではなかったので、「ふ」だけとって風太とした。
「とっても飼いやすい子ですよ」という施設の人の言葉通り、わがままを言わないおとなしい犬である。ごはんが遅くなっても、いつまでもじっと待っている。
 あまりにも鳴かないので、声帯でも悪いのかと思っていたら、家の前を通りかかった犬に、とても男前の凛々しい声で「ワン!」と鳴いたので驚いた。
 ボールに興味を示さない。人の顔をなめない。もの静かな犬である。好きな人に愛情を示すときは、猫のようにスリスリしてひっついてくる。本来は甘えん坊だ。
 散歩は大好きで、これだけは我慢できない。だから、誰もいない大雨の公園をたった一組、散歩することにもなる。道で会った犬友には「ふうちゃんは偉いねぇー」と褒められるが、偉いのは、ぼとぼと雫を垂らしている私のほうである。
 風太に聞きたいことはいっぱいある。「ねえ、どんな半生を歩んできたの? どんな家族だった? 全部わかっているから、お利口さんにしているの?」
 もし自分の立場をわきまえておとなしいのなら、こんないじらしいことはない。今も前の飼い主さんを忘れられずにいるのだろうか──これが一番気になるところだ。今の風太はわが家の大切な一員。余生を幸せに全うさせてあげたい。そのときが来たら、「君の魂は、元の家とわが家、どちらでも好きなほうに帰っていいのだよ」と、送り出してやるつもりだ。

(矢追克恵さん 大阪府/63歳/無職)

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