富ちゃん(写真)です。
 もともと、飼い主である姉の家の周りにいた野良でした。ある大雨の日、姉が可哀想に思って玄関を開けてやると、じっと姉の顔を見てから、ふいといなくなったそうです。その後、どこからか1匹ずつ4匹の子猫をくわえてきて玄関に運び込むと、安心したようにこんこんと眠ったそう。
 子猫はよそでもらわれ、富ちゃんだけが姉宅に残りました。富ちゃんのきょうだい猫が平井さんという家で飼われ、「平ちゃん」と呼ばれていました。そこで、姉の嫁ぎ先の名字「富岡さん」から「富ちゃん」と呼ばれるようになったのです。
 富ちゃんと姉は、実の母娘もかくやというような親密な絆で結ばれました。
 病気がちな姉が寝ていると、心配そうにおでこで姉の全身を優しく押し、透析を終えて帰宅すると、お気に入りのものを玄関に並べて大歓迎してくれたとか。
 ただ、それほど待ちわびた姉がデパートの袋などを手に帰宅すると、「こんなに待っていたのに、遊んできて!」とばかりに大いに不機嫌になったそうです。
 そんなときに母が電話すると、いつになく電話口に富ちゃんが割り込んできて、母に姉の非道を訴えるのだそうです。母が真面目な調子で「そうかい、お前がそんなに待っていたのに、遊んできたのかい? いけないねえ。怒ってあげようね」と言うと、「そら見ろ、怒られる」とばかりに、意地悪く、でもうれしそうに姉を一瞥したのだそうです。
 今年、十三回忌を迎えた姉は我が家の仏壇で、姉が亡くなった半年後に10歳くらいで逝った富ちゃんは仏壇脇の戸棚の中の骨壺で、仲良く並んで家族を見守っています。
 この文を書くことで、生前この欄の大ファンだった姉との約束をようやく果たせました。

(江森早穂さん 広島県/62歳/大学職員)

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