わが家の雄ジャム(写真)は今年20歳になった。
 5年前から両耳が聞こえないので、ジャムを呼ぶときは近寄って指先でちょんと触る。すると、ちょっと驚いて「ニャア」と言いながら振り返る。離れたところにいるジャムと目が合って手招きすると、「ニャア」と言いながらすぐ走ってくる。私にはその声が、「ハーイ、お母さんなあに?」に聞こえる。招き猫ならぬ招かれ猫だ。
 この20年の間にはいろいろなことがあった。
 ジャムの後に来たラブラドルの子犬は、初対面で猫パンチをくらい、即、従者になった。この犬はうちで6匹の子犬を産んだが、生まれたばかりの子犬みんなを、ジャムは1匹ずつ丁寧になめてやった。
 6匹のうち、家に残した1匹は、大きくなってもジャムに甘え、いつもなめて毛づくろいをしてくれとせがんだ。ジャムはボスであり、親のようでもあった。
 20年の間に2匹の犬は病死したが、それぞれの闘病中もジャムは優しく彼女たちをなめてやり、看取った。
 また、やんちゃな面も持つジャムは13歳のころに交通事故に遭い、奇跡的に命拾いしたこともある。そのときは下顎が唇からスパッとはがれ、15針も縫った。
 20歳になったジャムの両前脚は、加齢と若いころの無理がたたり、関節が変形している。それでもトイレ後のハイテンションのときには、白鵬が待ったなしの土俵に向かう勢いでタタタと階段を駆け上がる。
 しかし普段はヨイショヨイショと1段ずつ上り下りし、おじいちゃんそのものだ。尻の肉がそぎ落ちたジャムのその姿に、私は自分を重ねる。
 42歳だった私も62歳になった。ジャムと同様、軽度の変形性膝関節症の私は「同じだね、でも頑張ろうね」と思う。

(高松博子さん 香川県/62歳/主婦)

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