わが家の小太郎(柴犬の雄、1歳、写真)です。
 大の犬好きの母と私は、いつか鼻の黒い、小麦色の柴犬を飼おう、池波正太郎の『剣客商売』に出てくる主人公の孫の名をとって小太郎と名付け、好き放題させよう、毎日おいしいものを作ってやろう、と折に触れて話していました。
 そのうちに居間でおなかを出して寝る小太郎、廊下を耳を伏せて駆け回る小太郎の姿が目に見えるような気にさえなりました。
 夢を叶える前に母は亡くなったのですが、仕事が一区切りついたので、理想の小太郎探しを開始。紹介で南阿蘇まで出かけ、そこで夢に見た小太郎を見つけました(と錯覚しました)。
 しかし実際の彼は夢の小太郎とは大違い。凶暴でわがまま、その上強情で、可愛い小犬ちゃんとは程遠く、わざわざ災難を背負い込んだ己の愚かさを後悔する日々でした。
 気に入らないとほんのチビのくせに荒れ狂い、私は生傷が絶えません。同居している兄が「お前が不審死したら、俺がDVを疑われる」と言ったくらいでした。
 ただ「外づら」だけは完璧で、獣医さんの待合室では他の犬の挑発を無視し、診察室でもおとなしく診察や注射を受けて獣医さんに「こんな性格の良い子はいません。問題があるとすれば飼い主のほうです」と断言されるほど。
 今は少しずつ落ち着いてきて、兄の言うことはほぼ、私の言うことはまあまあ聞くまでになりました。今や小太郎に大歓迎されない帰宅も、彼に手を舐められない目覚めも、彼のいない生活など考えられません。
 昔読んだ『ピノキオ』で、悪いことばかりするピノキオのことを、おじいさんが言う言葉が、今しみじみと実感されます。
「小太郎は悪い子なんです。でもうちの子なんです」

(江森早穂さん 広島県/62歳/大学職員)

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