わが家の雌のトイプードル、モモを見ていると、「忠犬ハチ公って、わりと普通の犬だったんだなあ」と思わずにはいられない。
 大好きな母が外出すると、モモは1階の事務所に下りてきて、母が帰ってくる方向をずっとずっと一心に見つめている(写真)。
 もしも母が電車を利用するなら、そしてモモが自由に外へ出られるなら、モモだってきっと雨の日も風の日も駅まで迎えに行くことだろう。銅像は無理にしても、ぬいぐるみぐらいは作られるのではないか?
 以前、モモがいつの間にか家を抜け出し、道の真ん中で伏せをして母の帰りを待っていたことがある。
 私はギャーと叫んで、腰を抜かしそうになった。てっきり車にひかれたと思ったのだ。抱き上げてケガがないことを確認したら、涙が出そうになった。
 母が買い物から帰ってくると、まだ姿が見えなくても足音だけで甘え声を出したり、駆け回ったり、大騒ぎが始まる。発電機をつけたら2、3時間分の電力はまかなえるかも、と思うほどしっぽを振りまくる。そして母めがけて何度も何度もジャンプするのだ。まるで鯉の滝登りみたいに。
 そんなモモを母は愛おしそうに抱きしめる。母が帰ってきてしまうと、モモはもう用はないとばかりに事務所で働く私たちを残して2階に上がる。愛おしくも憎らしい態度だ。
 父が病気で亡くなり、抜け殻のようになった母の元へ小さなモモはやって来た。
 子犬の愛らしい動作は家族みんなの悲しみを癒やし、子犬の世話や毎日の散歩のおかげで、母は少しずつ元気を取り戻した。
 あれからもう11年。モモもシニア犬になり、おなかのシミも目立つようになった。それでも脚力は衰えず、今日も軽やかに階段を往復し、母の帰りを待っている。

(藤山紀子さん 鹿児島県/50歳/個人事業主)

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