動物恐怖症を自認していたはずのかみさんの胸で、グルグルとネコのサクラが目を細める。2歳の雄なのに、とても人を恋しがる。
 中でも私は別格になった。四六時中追いかけてくるし、いつも窓際で帰りを待っている。やがてベッドも共有するようになった。ネコも人に付くようだ。
 娘が就職のために帰郷して1年後、ネコを飼いたいと相談された。
 娘は子どものころから大のネコ好きであるが、一生寄り添って暮らす責任は重い。どんな状況になってもずっと面倒をみる意思を確認し、やむなく了解した。
 そして里親募集のサイトで見つけたのがサクラであり、家族として迎えたのは2年前の春のことだった。
 宇和島市の駅前駐車場で初めての対面。生後2カ月、白と灰色のミックス。高知県宿毛市でNPOの方に保護されていたのをその場で譲り受けた。
 情報によると、その子ネコは野良ネコが産んだ子どもだという。飼い主はわが娘である。その日から娘は「母ちゃん」と呼ばれるようになり、爺(私)と婆(かみさん)ができた。
 生後初めての夏、初めて見た虫に感動するサクラ(写真)に、生きとし生けるものの命の輝きを見た。
 だが、ネコと娘の蜜月は長くは続かなかった。しばらくして娘は、学生時代を過ごした京都に生活の場を移すことになったからだ。連れていける環境にはなかった。
 サクラ。娘の好きな、ネコであり、日本のシンボルツリー。そして家族の絆。
 生みの親も育ての親も遠くに行ってしまった。
 しかし、「サクちゃんの写真もっと送って」のメールに、今日もサクラ便りをしたため、帰省の知らせを待っている。「母ちゃん」は君のことを忘れてはいないよ、サクラ。

(久保浩さん 愛媛県/60歳/無職)

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