ある日、妻が1匹の犬を連れてきた。生後間もない捨て犬だった。私は飼うのに大反対だったが、可哀想なのでしばらく家で面倒を見ることは許した。
 結果は3日間居座った犬の勝ち。私も犬が嫌いなわけではなかったので、結局飼うことにしたのだ。妻はその間にちゃっかり名前を決めていた。雌だとは思わなかったため、当時のボクシングチャンピオン・勇利アルバチャコフからとって「ユーリ」。
 最初は妻が散歩担当だったが、長男が誕生してからは私も散歩に連れていくようになった。散歩はいつも朝行くので、朝が苦手な私も少しは早起きできるようになった気がする。
 飼い始めて1年たったころ、散歩中に私の不注意でユーリが車にはねられてしまった。事故の瞬間を私も妻も見ていて、かなりの衝撃だったので、もう駄目だと思った。しかし、彼女は奇跡的に生還した。この危機を乗り越えた後はユーリも平穏に暮らし(写真)、17歳を迎えた。
 若いころのユーリは、捨てられたことによる人間不信からか、とにかく人によく吠えた。家族以外には全く懐かず、他人が触ろうとするとすぐ飛びかかるような犬で、番犬にはうってつけだった。
 年を取ったせいか今では人が来ても全く吠えなくなり、小学生の娘の友達にも遊んでもらえるようになった。そんな姿を見ていると、今一番幸せな時を過ごしているのではないかと思う。
 脚も弱くなり少しの段差でも転ぶようになったが、散歩はまだまだ大好きで、家から出るときは若いころのように元気に飛び出していく。気持ちはまだ若い。
 生後すぐ捨てられ、しかも一度死にかけた犬がよくここまで生きたなと思う。「いつまでも一緒に散歩に行こうね」と妻が言った。

(大久保徹さん 群馬県/44歳/自営業)

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