気がつくと庭の片隅に座っていた白と黒の模様の。11年もわが家に通ってきたので「ブチ」と名付けた。
 彼は体に触れられることを嫌い、1歩近付くと1歩退く。人間を警戒していた。
 ある日、ブチがケガをして足を引きずりながら、わが家の猫「さくら」と一緒に帰ってきた。ストーブの前に置いた桶の中に毛布を敷いてやると入って寝た(写真右。左はさくら)。
 目が覚めるとごはんを食べ、トイレをすませてまた寝る。砂をかけ、トイレの後始末をするのはさくらだった。
 夫婦でもないし、兄妹でもない。なのに喧嘩もしない。よその猫がさくらを威嚇すると、どこからか現れて追い払う。不思議な関係だった。
 ブチはいつの間にか近所のYさん宅で小屋を作ってもらい、そこで暮らすようになった。そこでは違う名前で呼ばれ、ごはんや薬、サプリメントももらって可愛がられていた。
 しかし、ブチは1年ほど前から少しずつ弱りはじめた。この春、2、3日来なくて心配していると、夕食の時間にひょっこりと現れた。台所の戸を開けると、いつも私が座る椅子に乗った。初めてのことだった。好物のタイの身を箸で取ってやると、2口だけ食べた。
 翌日の夕方、Yさんから息遣いがおかしいと連絡を受けたので出かけ、声をかけると細い声で鳴いた。一度も触ったことのなかった体を思いきってなでたら、温かくてほっとした。
 翌日、夫と様子を見に行き、夫が声をかけてなでると大きな鳴き声を数回たてた。私はただただ心の中で祈ったが、明け方に亡くなった。
 桜島が見える丘に、Yさんのご好意で他の猫たちと一緒に眠ることになった。これでブチも寂しい思いをしないですむだろう。

(松山政子さん 鹿児島県/60歳/主婦)

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