晴耕雨読を志して夫婦2人、北海道の山村に移り住んだのが20年前。
「田舎で暮らすなら自給自足よね」と、移住と同時に我々が勇んで買ったのは雌山羊だった。
 たんぱく源として牛乳を考えたけれど、乳牛の泌乳量は一日に30リットル。夫婦2人にはいくら何でも多すぎる。
 ならば、と考えたのが一日2リットルの山羊。山羊なら体も小さくて扱いやすく、飼料代も大してかからない。加えて、夏には家の周りの草を食べ尽くす雑草刈り機としても大活躍だ。
「山羊の乳は臭いでしょう」などと訳知り顔で言う人もいたけれど、この山羊乳の風味が夫と私を魅了。特に、山羊乳をレモン汁で固めたカッテージチーズなぞは、極上の逸品だ。
 のだけど……。地域になじむと共にPTA活動だ地区役員だ何だと山麓のわが家も俗世の波に洗われ、段々と山羊乳を搾ることもままならなくなった。
 それでもいまだにわが家には山羊がいる。ただし、今や彼女らは完全なペット。
 もっとも母山羊は、あんまり可愛くないから、その任を負うのは、毎春誕生する子山羊。これがむやみに可愛くて、それで山羊飼いがやめられない。
 山羊は本来、岩場で暮らす動物だから、高い所に登りたがる。この習性に目を付けて、高校生の娘は子山羊が生まれるや山羊小屋に入りびたり、子山羊を膝や背中に載せる訓練を始める。
 生後1週間もすれば子山羊は娘の背中に飛び乗り飛び降り、きゃあきゃあ、メーメー、一人と一頭はくんずほぐれつ遊びに遊ぶ。
 この春生まれた雌のスノーも、この特訓の成果を発揮して、馬跳びよろしく娘の背中で遊びまくっている(写真)。乳も搾られない山羊が大きな顔をして小屋を闊歩する光景が、まだしばらくは展開されそうである。

(石村由有子(ゆうこ)さん 北海道/53歳/団体職員)

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