驚いた。そして、その言葉が妙に響いた。

「子どもたちのため……と、言いながら、本当は、自分のためだった。僕は、自分の居場所が欲しくて、フリースクールを始めたのかもしれない」

 自分にベクトルが向いた瞬間だった。

「だったら、自分のところに来てくれる子どもたちや、自分に子供を預けてくれる両親に感謝しなければならないはず」

 この日から変わった。

「ああしろ、こうしろ」

「こうしなければならない」

 と、指示していた岸本さんから、

「ここに来てくれてありがとう」

 と、感謝する岸本さんに変わった。

「僕は、教育をしているんじゃない。『教育』は、教えて育てること。僕は、『学問を学びにくる』場所を提供しているだけ。つまり、自分に問いかけて、学ぶ場所を作りたい」

 その考え方になった。

 それからは、子どもたちを信じて、

「やんちゃしてもいい。学校に行けなくてもいい。ただし、自分と向かい合うことからは逃げちゃいけない」

 そんなメッセージを送り続けた。

 結果、彼のフリースクールからは、医者になった子もいれば、地域のために活動する子も生まれた。

 そして、お母さんたちも相談にくるだけじゃなく、学びにくるようにもなった。

 この話を聴いて、わたしも、つい、他人のせいにしてしまう自分に反省。

「自分にベクトルを向けて、自分に問いかけて、学んでいるだろうか?」

 と、思わず考えてみた。

 まだまだ、わたしも自分に甘い。

 でも、自分にベクトルを向けると、やっぱり反省と感謝が生まれる。

 そんな気持ちを大切にすると、いいことがありそうな気になってきた。