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ウルトラのハンバーグはマックの味がした

文・中島かずき

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 小田急が地下になってから、なんとなく下北沢にいくのがおっくうになっています。
 地下のホームから地上改札までの距離が長くて降車する気がしないんですね。
 いくつか好きな喫茶店があり、地下化する前は、わざわざそこまで行って仕事をしていたこともあったのですが、このところ足が遠のいています。
 若い頃、下北沢に住んでいたのですが、その当時の面影はもうあまり残っていないですね。若者の町なので、店舗の入れ替わりも激しいし、もう30年ほど前のことなので仕方がないと言えば仕方ないのですが。

 当時、夕食を食べによく通っていたのが駅前の王将と、マックという洋食屋でした。
 南口の階段を下りた前のビル、今はスターバックスがあるあたりに王将がありました。そこからマクドナルドの方に下っていってすぐのビルの地下にあったのがマックです。
 そこそこの値段で、ちゃんとした洋食が食べられる。ずいぶん通ったものです。もっぱらハンバーグ定食を食べていました。というか、値段と腹持ちというコストパフォーマンスを考えると他の選択はなかった。新入社員でしたから、そんなに余裕のある経済状態じゃありませんでしたからね。
 下北沢に住んでいたのは、双葉社に入社してから結婚するまでの5年ほどです。
 それまでは学生時代からずっと住んでいた桜台にいたのですが、いろいろ行き詰まっていたので、気分を変えようと思って、以前から憧れていた下北沢に住むことにしたのです。
 芝居もやめてせっかく憧れの出版社に入れたのに、希望していた編集ではなく広告部に配属になり飛び込みの営業などをやらされて、当然うまくいくはずもなくめげる毎日でした。会社の仕事は面白くない。個人的な人間関係もうまくいかない。芝居もやめてしまったし、自分は何をしてるんだろうと思い悩んでいた時期でした。
 そのちょっと前に本多劇場やザ・スズナリ、駅前劇場など続々と新しい劇場ができていました。小劇場のメッカということで、芝居をやっていた人間にとっては、まぶしいほど憧れの町だったのです。
 でも住んだからと言って状況が激変するわけじゃない。
 むしろ町が華やかな分だけ、更に「今の自分は何もやってない感」が際立って焦ったりしていました。
 そんな忸怩たる思いで一人食べていた食事の象徴がマックでした。
 さんざん通っていたのですが、結婚して引っ越して下北沢で一人で食事をする機会が減ると、自然に足が遠のきました。
 マックの入っていたビルごと、店がなくなっていることに気づいたのも随分とあとのことです。ある日気がつくと、ケンタッキーフライドチキンに変わっていました。
 ちょっと寂しかったのですが、もう二度と食べられないことも含めて、いわゆる青春の思い出なんだろうなと思っていました。 

 そのマックのオーナーの息子さんが、経堂にウルトラという洋食屋を出していると教えてくれたのは樋口真嗣さんです。
 息子さんですから味は違うかも知れないけど、どんなものだろうと足を運びました。
 メニューには、ハンバーグ定食もしっかりあります。
 独特のソースのかかったハンバーグに、つけあわせのキャベツとあっさりと味付けしたスパゲッティー。それに味噌汁。
 あのマックのハンバーグ定食でした。
 特につけあわせのスパゲッティーが独特の味で、口に入れた瞬間、20代の悶々とした時期が走馬燈のように蘇りました。
 食べ物って怖いですね。久しく忘れていた、あの頃の焦りや苛立ちを一気に思い出したのです。
 おいしいんですよ。マスターも素敵な人柄だし、雰囲気のいい店です。
 実際、それから何度も通っています。
 でも、あのハンバーグ定食を食べると、毎回、20代の頃、自分がどういう仕事が出来るのか悩み、根拠の無い自信となにをやればいいかが見えない不安にゆれていた気分を思い出します。
 この歳になって、そんな気分になるのは悪いことじゃないと思っています。あの頃の自分を思うと、もうちょっと背筋を伸ばして頑張らないとなと思えるのです。
 ただ、「マックからウルトラって、それ、なんか『ウルトラマンレオ』ですか」と突っ込みたくなる特撮好きの自分もいるんですけどね。


(更新 2013/5/23 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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