タワレコの袋によみがえる、高校生の僕ら |AERA dot. (アエラドット)

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タワレコの袋によみがえる、高校生の僕ら

文・中島かずき

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 先週もずっと忙しくて、今週に入ってようやく『シレンとラギ』を公演中の青山劇場に顔が出せました。
 また10日ぶりです。
 それでもまだまだ公演が続いているというのは、よく考えてみれば相当長いですね。
 東京初日があけてから、かれこれ一ヶ月近く経つというのに、まだあと10日近く公演はある。
 稽古が始まったのは3月下旬、まだ寒くて冬物のコートを着ていたと思います。それがすっかり半袖。
 顔合わせの時から、「3月から稽古が始まって終わるのは7月。冬の終わりから初夏までと季節を三つまたぐなあ」と思っていたのですが、本当に長いです。
 それでも、ようやく終わりが見えてきた感はあり、キャストもスタッフも少しホッとしているようです。
 
 いつの間にか、新感線も大所帯になってしまいました。大阪以外の地方にも行けるものなら行きたいのですが、これだけ大きくなると採算の問題だけでもなかなか厳しい。
 昼夜の二回公演がある時は、間で弁当が出る時があります。
 主催者であるヴィレッヂだけでなく、キャストの方達なども差し入れしてくれる。なんとなく慣習になっていて、僕も一公演一回は受け持つようにしています。
 この弁当の数だけでも今や100個以上。キャストとスタッフだけでそれだけの人間がこの舞台に関わっているのです。
 これはバカにならない数字ですね。
 今回、僕がお願いしたのは『酔心』という牡蠣と釜飯が有名な広島料理の店です。
 僕も好きでたまに行くのですが、ここがお弁当の仕出しをやっているとは知らなかった。しかも、鯛飯弁当をお願いしたいとスタッフが電話したところ、そのメニューは物産展のための特別メニューだったのだが、これだけの注文数なら承りますと言うことで対応してくれた。
 なるほど、一日で100個以上の注文になるわけですから大口です。
 新感線という集団の経済効果は、こんなところにもあるんだなと実感しました。 
 芝居とは直接関係がないものだっただけに、かえってはっきりわかるのかもしれませんね。

 昼公演と夜公演の間、楽屋にいると、外出していたいのうえひでのりが入ってきて、ゴソゴソとテーブルの上にCDを並べ出しました。
 休憩中にCDを買いに行ってきたらしいのです。
「そのCD、どこで買ってきたの?」と僕が尋ねると「タワレコ。この辺だとあそこが一番数が揃ってるから」と言う、いのうえの答えに妙な既視感が。
「なあ、高校生の頃にも同じような会話をしてなかったか?」と僕が言うと、「ああ、確かに」といのうえも笑う。
 喫茶店かどこかでいのうえが袋からLPを取り出して、ほくほく顔でライナーノーツを読み出すのを見て「なあ、そのレコード、どこで買うてきたと?」と聞く僕に対して「ん? ベスト電器。あそこが一番そろうとるけんね」と答えるいのうえ。
 あの頃はまだレコードで、僕らも何者になるかよくわからない福岡の生意気な高校生でしたが。
 
 あれから35年以上経って、長期公演が打てて大所帯で、日本でもトップクラスの役者さんと一緒に芝居が作れるようになっても、その楽屋では脚本家と演出家が高校生の頃と何ら変わりない会話をしている。
 それはそれで幸せなことだよなあと、改めて思った次第です。


(更新 2012/6/21 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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