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年末恒例の翻訳ミステリー

文・中島かずき

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 ようやくジェフェリー・ディーヴァーの『スリーピング・ドール』を読み終わりました。
 毎年、文春文庫で年末に刊行される彼の本を見ると、「ああ、年の瀬だなあ」と感じます。
 20から30歳くらいまでは、山のように翻訳小説を読みました。当時、海外冒険小説のブームがあったりして,毎月毎月おもしろい作品が各社から出ていたのです。
 でも、仕事が忙しくなったこともあり、いつのまにか海外の作家からは遠ざかってしまいました。
 今でも読み続けている翻訳のシリーズは、ディーヴァーのリンカーン・ライムものくらいです。
 今年は忙しくて少し時間がかかってしまったのですが、毎年、正月休みに彼の作品を読むのを楽しみにしています。

『ボーン・コレクター』で登場したリンカーン・ライムは、事故で首から下が麻痺してしまった鑑識捜査官。安楽椅子探偵の極地です。
 ディーヴァーという作家は、とにかくプロットに凝っていて、隙あらばどんでん返しを仕掛けてくる。
 読者の予想の半歩先をいくのがうまいんですね。
 このシリーズは犯人とライム達捜査陣の知能戦が魅力です。犯人側と捜査側を交互に描いていくことが多いので、お互いの手の読み合いがおもしろい。
 とにかく最後の最後まで何か仕掛けてくる作者なので、気が抜けないのです。
 きっちり練られたプロット、決め手となる科学捜査などの情報量も半端ない。こういう、隅々までみっちりと詰まったエンタテインメントを見ると、「やっぱり肉食人種のスタミナはすごいなあ」と思ってしまいます。
 おもしろさの密度が、日本人作家と違う感じがするのですね。
「ディーヴァーはおもしろくないことはないけど、あれだけどんでん返しが続くともういいよという気になるよ」という知人もいるくらいです。
 その技巧が僕にはたまらないのですが、最近はスタミナが落ちたのか「ああ、おもしろい」と思いながら一章読むとちょっと休憩したりしているので、どんでん返しの連続にくたびれる人もいるのもわかる気がします。

 今回読んだ『スリーピング・ドール』は、リンカーン・ライムシリーズから派生したスピン・オフです。
 シリーズ第七作の『ウォッチメイカー』で登場した、容疑者のどんな嘘も見破る尋問の名手キャサリン・ダンスを主役に据えた作品です。
 頭の切れはライム同様なのですが、主人公が女性ということもあり、ライムシリーズには見られないシングルマザーである主人公の生活感や淡い恋愛感情などが描かれ、少し味わいを変えています。もちろん凝ったプロットはこちらも健在なのですが。

 リンカーン・ライムシリーズは、どれも読み応えがあるのですが、その中でも特に『魔術師【イリュージョニスト】』が好きですね。
 この犯人は奇術師。密室状態の犯行現場から消え失せる。最新の技術を使い別人に変装することもたやすい。変装、心理誤導、ピッキング、人を騙すありとあらゆる技術を持った男が敵。いわばリアルルパン三世なのです。多少漫画的展開かと思えても、この設定なら無理がない。ライムとの虚々実々の駆け引きが素直に楽しめます。

 ディーヴァーは、昨年『007』の新作を発表しています。
 僕は文庫化を待っているのでまだ読んでいません。
 さすがに根強いファンを持っているキャラクターなので評判は毀誉褒貶あるようですが、 あのジェームズ・ボンドをどんでん返しの魔術師がどう書いているのか、これも楽しみです。


(更新 2012/4/ 5 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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